第145話 「敵対したい者」
2016.04.10 1話め
「古都音を手に入れたい、と言っていた人間がこの程度、ねえ」
俺は、決闘開始数分ですでにボロボロになっている少年の、襟首を掴んで無理やり引き上げた。
意識は朦朧としているだろうが、特に関係はないだろう。
颯はちゃんと仕事をこなしてくれている。どんな方法をとったのかは分からないが、それでも栄都アインの足止めには成功している。
だから、なんと言ったって俺にはそれが都合よかった。
「俺……俺、は」
「正直、お前には身体に傷を負わせたってしかたがないからなぁ」
意地悪な、そして殺意を明確に含ませた顔を刀眞遼に見せつつ、何をしようかともう一度考える。
正直、このまま刀眞家を一斉になんとかしたい。刀眞遼を殺ってから元両親というのは、骨が折れるし二度手間だ。
だからといって、ここで刀眞遼を殺しても意味が無い。
さて、どうするか。
正直、目の前の男を殺してしまっても、【八顕】の跡取りを考えればいい話だしな。
……俺は「刀眞」を名乗っていないから、その中には含まれないが。
しかし、どうしてもなあー。どうにかして刀眞家を【八顕】から引きずり降ろせないだろうか。
そんな中、俺は【神座】が【八顕】の家を決めていることを思い出した。
そして、【選別】によって染色された刀眞遼の顕現力が、スタジアムの外に3本流れていることに気づく。
なんだろう、と考えながらそれを凝視していると、その先に何があるか感じ取ることが出来た。
一つは、俺の元母親。一つは、俺の元父親。
そして最後は、お目当ての【神座:雷】へのものであった。
……ほう、と。
俺は、自分の中でいいことを思いついた、とほくそ笑んでしまう。
一撃で刀眞家を崩壊させられるかもしれない。
「さて、選択していただきます……おっと」
そこで、ついに颯が抑えられられなくなったのか、栄都アインがこちらへ突撃してきた。
一閃と光るのは刀だろう、俺はそれを、【顕現属法】によって強化された【始焉】を振るうことにより受け止め、身を翻して刀眞遼を盾にする。
「ご苦労だったな、颯」
「済まない。予想ではもう少しなんとかなっていたと思うのだが」
いや、もう大丈夫だろう。
俺はスタボロになって居る遼を見て身体を硬直させた栄都アインを、じっと見つめる。
動揺と迷い。それがすぐに分かるほど、彼女は揺れていた。
何か言葉をかけたんだろうな、さすがだ。
「……何のつもり?」
「俺の敵は刀眞遼であり、栄都アインではない。今のところはお前と戦うつもりはない。……古都音や俺を襲ったことは今、帳消しにするつもりでいるからその刃を向けるな」
あくまでも柔らかく、俺は話しかける。
しかし、相手がそれに耳をかさないことが表情で分かった。
そのため、俺は凄みをきかせて話を続ける。
「しかし、俺と【敵対】したいのであれば、俺はどんな手段を使ってでも潰してやろう」
俺の言葉は、蒼穹城進の状態を知っている人にとっては……かなり強力な効果を見込めるものだと分かっている。
すぐに相手は刃を収めた。まあ、いいか。
「さて、刀眞遼、選択のお時間だ。【負けを認めて生きる】か、【負けを認めず死ぬ】か、どちらが良い?」
「……貴方、本当に外道ね」
栄都にそんなことを言われたが……外道なのか?
少なくとも、俺は前者を選ばれた場合、殺すようなことはしないぞ?
蒼穹城みたいに部位破損もしない。ただ、俺は古都音を手に入れて、一緒にこれから歩んでいくだけだ。
何が外道なのか、さっぱりわからない。
「……俺は、生きたい」
「なら。頑張って生きるんだな」
俺は刀眞遼を解放し、次に栄都を見つめた。
そちらにも、一応話しておくか。
「そちらは?」
タッグデュエルだからな、両方が同意してくれないとどうにもならないからな。
「私は、こんなの認めないから。遼が負けるなんて……!」
あっさりと刀眞遼は了承してくださったのに、何でこの人はこうなんだろうね。
やっぱり、俺が何か良からぬことを考えていると知っているのだろうね。
俺は出来るだけ平和的に行きたいよな。
「……私と戦いなさい、八龍ゼクス」
「そうくるか」
前は、古都音を守りながら反撃もせずしていたからな。
今回は……きちんと戦ってやるか。
「颯、頼む」
「分かった」
颯に刀眞遼の監視を任せ、俺は前に進み出た。
観客席ではすでに勝敗は決して居たものだと考えていた人が大半らしく、ざわついている。
「と、なれば。栄都アインも敵、と。分かった」
……こうなったら一切の手加減無しだ。
栄都アインも潰してしまおう。
次回更新は明日です。
ゼクスの考えている復讐方法の真相はもう少し先です。




