第014話 「八龍・蒼穹城の準備と考え」
遅くなって申し訳有りませんでした
「ねえ、颯」
「なんだ進」
僕、蒼穹城進は八龍君と神牙君が女の子とお話しているのを遠巻きに見つめながら、そばに居た善機寺颯に話しかける。
相手はずっと不機嫌だ。でもそれは不機嫌そうな顔をしているだけで、今は何かを感じて、笑っているようにも感じ取れる。
何か、嬉しい事でもあったのかな?
うん?
「やっぱり、僕はあの八龍くんと何処かで出会った気がするんだよね」
「……気のせいではないのか?」
俺は知らん、と颯。僕はもう話にならないなと見切りをつけて、次に遼に話しかける。
遼なら、何かを感じ取ってくれてるかも。
「遼はどう思う?」
「……八龍には興味ないな。俺は神牙を叩きのめしてやりたい」
ああ、この人は人の話を聞いていないね。
神牙アマツと何があったのかわからないけれど、そこは触れてやらないのが一番かも。
僕達【八顕】っていうのは、全員が常任理事で一定の発言力を持っているけれど。
親の仲が良くないみたいで、だから子供同士もそんな感じかな。
僕の名字である『蒼穹城』、遼の『刀眞』、颯の『善機寺』の合わせて3家と。
『神牙』、『須鎖乃』、『亜舞照』、『月姫詠』の4家が対立してて。
『神御裂』は中立っていう形をとってるから、まだなんとかなってるんだと思う。
ちなみに、【三劔】はそれぞれ自由に動いてるって感じなのかな?
自分の正しい方に、状況に応じてつくっていうのが普通だと思う。
僕には難しいこと、何一つわからないんだけれどもね。
「契はどうおもう?」
「……分からないよ」
本当……朝に何かされたか、とこっちが心配になっちゃうほど契の気分はすぐれない。
顔は蒼白だし、何かにおびえているようで周りを見回してたり、時々びくっと体が跳ねたりする。
昨日そういえば、入学式に出席してなかったけれど何かあったのかな。
「なんでもいいから、何かあったら僕にいうんだよ?」
「うん、ありがとう」
そう弱々しく笑う契に、僕は頷く。
今はもう、この世に居ないだろう「胤龍」のように、無能化されたら困るからね。
使える駒は、できるだけ手元においておきたいよね。
「……どこいくのさ、颯。もうすぐ八龍君と試合だよ?」
僕は、席を立って試験場の出口に向かった颯を呼び止めた。
目の前の不機嫌そうな頬傷男は、ふんと鼻を鳴らして「トイレだよ」と。
おっと、これは失礼しちゃったかも?
……まあ、僕も神牙アマツと戦う準備をしなくちゃね。
ところで……。
「契は誰とだっけ?」
「……遼君とです」
「そうなの? 見てなかったわー」
軽い感じでとぼける遼に、僕はひと睨み効かせて警告を出しておく。
僕の婚約者を傷物にしてもらったら、蒼穹城全力を持って叩くとね。
「怖いなーその目。5年前、俺の弟にもそうしたのか?」
「昔のことなんて、いちいち覚えてないや」
過去に囚われるのは弱者だからね。
僕は違う。
少なくとも、【八顕】以外で僕と対等な人間はいない。
できれば八龍君も手籠めにして、使い倒したいところだけれど。
何故か憎まれてるらしいし、それは難しいのかな。
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「……クスくん、ゼクスくんっ」
肩を強く揺すられて、俺は目を開けた。
目の前には銀髪の美少女が、俺を呼んでいる。
「ゼクスくん、出番まであと1試合です」
「……へぇ」
「へえ、じゃなくて! もう起きてください」
ゆさゆさ。
その振動が逆に気持ち良い。
さて寝るか。
…………。
……あと1試合?
「ああ、やっと起きました」
俺が顔を上げて周りを見回すと、そばにはアマツと、須鎖乃さんの姿がある。
私の活躍も見てないのかー、と残念がっている須鎖乃さんに軽く謝って。
俺は冷撫に、実戦テストの結果を聞いてみた。
「ルールは相手を地面に倒して、10カウントまでです」
冷撫がルール説明をしてくれる。
地面に倒して10カウント、か。
悪用できそうなルールだ。良からぬことを思いついたぞ。
「降参は?」
「原則なしです。クラスのみんなが見ている場所ですし、全力を出さないにしても自分から負けるなんていう格好わるいことはしないほうがいいですよ」
冷撫は、俺が負けると思っているんだろうか。
自分から負けるなんてとんでもない。
なんどでも言うが、「善機寺」には別段何もないが。
これはこの後の布石になる、大切な試合なんだ。
全力をだしてでも、相手をぎゃふんと言わせて見せつけないと、意味が無い。
「君は私を見てくれなかったが、私はちゃんと此処で見させてもらうぞ。八龍ゼクス」
「須鎖乃さん」
「アズサでいい。アマツの友人なら、悪い人ではないだろう」
うーん、男みたいな女性だな。
「アズサさん。それは買いかぶり過ぎですよ」
「それは、この試合を見て判断させてもらう」
そういってアズサさん、右目を瞑ってウインクをしてみせる。
俺が期待されているのか何なのか、よくわからないけれど。
戦いがもうすぐそこまで迫っているのは、よくわかった気がする。
さて、行きますか。




