第139話 「兄弟従兄弟」
2016.04.02 1話め
「決闘の日時が決まったよ」
次の日の、昼休みのことである。火曜日。
俺たちは、月姫詠斬灯の、刀眞家からもらったという矢文を読み上げてもらっていた。
「……なるほど、あと1週間ね。ありがと」
斬灯は、今日は何もしごとがないようだ。授業は昨日から始まっているし。
正直、授業もほとんど取っていないらしいが、ほとんどが特別待遇で免除されているという。
……まあ、【三貴神】だから特別扱いされているというのは納得できることであろう。
「ふふ」
「斬灯? 最近は学園に来るようになったんだな」
「まだ始まって2日目よ? そうねー、お仕事は一段落できたからいいのいいの」
そう呟いた斬灯の言葉は、本当に嬉しそうだった。それが、その口調からはっきりと分かるくらいに。
「これからは、もっとゼクス君と一緒にいられるのよ? 嬉しくない?」
「嬉しくないかと問われれば、嬉しいに決まってるだろ?」
斬灯に向かってそう答えると、斬灯ではなく俺の隣にいた古都音が、冗談めかして頬をふくらませる。
「むー」
「そういう意味でなく、俺は。……斬灯や鳳鴻、アズサさんと一緒に居られて嬉しいよ」
俺は【三貴神】だけではなく、古都音やアマツたちもを見つめた。
新しく、俺のそばに居てくれる【仲間】が、そこにいある。
大真面目に言っているつもりなんだが……。鳳鴻が、苦笑いをしているんだが、何か?
「うえ。そうやって大真面目に言えるのが、本当に凄いよね」
「……まったくもって同感だ」
颯もそこは、同感しなくてよかったな。
俺は何かキザっぽいことを言ったわけでも無いと思うんだが……。なんというか、俺は自分の言いたいことを言っただけだ。
……しかも、どうも俺は自分が言ったことの重大さを理解していない、らしい。
そんなことが、鳳鴻や颯の表情から読み取れる。
……うーん、わからん。
「颯君のほうはどうかな? ちゃんとゼクス君のお役に立ててる?」
「バッチリ」
質問をする鳳鴻に対し、颯はそれこそ自信満々な顔で答えた。
勿論、こちらとしても異論はない。役に立つたたないの問題ではなく、この短い時間の中でも俺の中で、善機寺颯という存在は信頼できるものと認識されている。
だから、俺は凄く満足している。最初にこの学園……【八顕学園】でまともに戦った相手が、実は従兄弟で今俺のみかたになっていることが、とても嬉しい。
「だって、まさかの従兄弟だものな」
「兄弟だって色々あるんだ、関係には気をつけなよ」
そうだな、そりゃそうだわ。
刀眞遼と俺で、ここまで違うとは思っていなかった。
復讐、早く完遂させて古都音達を安心させなければな……。そんな事を考えつつ、俺はどうしようかと頭をかしげる。
……何か、大切なことを忘れているような気がする。昨日……ええと、何だったかな。
「……俺は、ゼクスを裏切るつもりはない。……裏切ったと判断すれば、遠慮無く斬るといい」
颯の目は、本気だった。
信念か何かが、瞳の奥で燃えていることを、俺はしっかりと感じ取ることができる。
彼の言っている「容赦なく斬る」というのは、処刑という意味だろう。
真面目な颯のことだ、自分が悔いるくらいならもうダメなんだろうな……と。
まあ、裏切るわけ無いだろうし、俺も彼を裏切るつもりはない。
彼は俺を上に見ているようだが、俺は飽くまでも対等な関係で居るつもりだから。
いつか、彼のそのなんとも言えない誤解を解かなければならないのだろう。
次回更新予定は明日です。




