第138話 「【顕煌遺物】-パートナー-」
2016.04.01 1話め
『ゼクスの予想通り、あの刀は我と同じ【顕煌遺物】じゃな』
「危険なものなのか?」
昼休み、俺は【髭切鬼丸】と会話するため、少々古都音たちと離れて誰もいない体育館裏にやってきていた。
正直、こうやって話をするのは本当にリスクが伴う。他の人から見れば、虚空に向かって……イマジナリーフレンドと話をしている少年に見えることだろう。
目を閉じて話をする、という方法も確かにあるけれど、それは別だ。
あれは時間がかかる。数分の間ずっと目を閉じているのも、それはそれで変に思われる可能性が高いだろう。
『わからん。わざわざ相手のことまでこちらは知らん。……例えば相手の人格が女性か男性か、それとも両方を兼ね備えた存在か。……姿かたちが人間型か、それとも動物か、または霊体か。我が分かるのは、相手と直接対話した時のみ。それは相手も同じじゃ』
ああ、やっぱり人格っていろいろな形があるんだね。
そんなことを考えながら、俺はどうしようかと……どうしよう?
相手がどんなものなのか、よく分からないからなぁ。日本刀型だということは分かった。でも、それだけだ。
【顕煌遺物】である以上、いろいろと能力は持っているのだろうと。
うーん、どうしようかな。
俺としては、敵として戦いたくないものなんだろうと考えている。
だって、もう蒼穹城進は「敵」ではなくなった。
少なくとも。彼だけは、まだマシな部類に戻ったと思っている。
……俺、甘いかね?
甘いか。当たり前か……まあ、いい。
『蒼穹城進が、ゼクスに危害をこれから加えるのか加えないのか、それはこれから分かること。……その時になって、やっと相手の目的も分かるじゃろ』
俺は、とりあえず。……進への復讐は、完遂できたのだから。
何、俺は清々しい気持ちになってるんだろうな、自己満足でしかないというのに……。
「つまり、何が言いたいんだ?」
『我はゼクスの味方じゃぞ。もう運命共同体なのじゃから』
結局、何を言いたいのかはわからなかった。
俺は自分の意志に悩んでいただけで、その【顕煌遺物】についてどうするのか全然考えていなかった気がする。
『ただ、唯一わかることがある』
「ん?」
『あれは、本契約ではない』
本契約? よく分からない言葉に、俺は首を傾げると。
オニマルは丁寧至極に説明してくれた。有り難い限りだ。
つまり簡単にいえば、俺と【髭切鬼丸】の関係が本契約で、あちらは仮契約ということらしい。
違いもある程度説明してくれた。……こう考えると、俺的にはどうなんだろう?
普通に本契約出来たというのは幸福なことなんだろうか。
『当たり前じゃ。いつでも乗り換え可能と比べるな』
「そうだな……」
ちゃんと考えてみたら、そっか。
【髭切鬼丸】は、ずっと俺と一緒にいてくれるんだから、な。
「これからも宜しくな、オニマル」
『宜しくなのじゃ』
あー、やっぱり。
俺の周りの人は、暖かい人ばかりだ。
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『へえ、あれが【髭切鬼丸】と八龍ゼクス、か』
「当分の間は敵になるつもりはないよ。少なくとも、勝てる見込みがついてからだね」
僕……蒼穹城進は、【氷神切兼光】と……。
屋上にいた。
学園の屋上っていうのは元々開放されていない場所と、開放されている場所があるんだけれど。
今、僕は前者の方にいる。周りには誰もいないし、ここにいるのはカネミツと僕だけだ。
だから、話をしていられる。
『進は、彼の仲間になるつもりかい?』
「まさか。……そんな資格、僕にはもう無いんだよ?」
『その身体にした男に、復讐したくはないのか?』
【氷神切兼光】が、何を言いたがっているのか分かるような気がした。
そもそも、僕が彼に見初められたのはそれが原因だ。
復讐心、憎しみ。それが原因だ。
でも、思ったよりも……今の僕は、そんな気持ちを一切感じない。
ちょっとだけだけれど、八龍ゼクスの気持ちが分かった気がするんだ。
それは本当にちょっとかも知れない。そもそも、そのちょっと分かった気がするそれが、間違っているものかもしれない。
でも。
僕は……。
「それをやってるといつまでも止まらないよ、終わらないんだ。ただただ、お互いにお互いを憎み続け、最終的には両方共死ぬ」
『ほう』
「僕はね、彼と好敵手になりたいんだよ。前の関係に戻れなくても、戦いで会話できればいい。……僕の目指す場所と、彼の目指す場所はあまりにも違いすぎるし、僕は全く自分のことが見えていなかったからね」
僕は、あの時選択を間違えた。
だから、今回こそなんとかしたいんだ。
具体的には何があるのかわからないけれど。
『けっ。……面白くなってきやがって』
次回更新予定は明日です




