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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第5章 夏休み
134/374

第134話 「デート 5」

2016.03.23 1話目

「なんというか、さ」

「はい、なんでしょう?」


 昼食は、古都音ことねが案内してくれたイタリアンレストランである。

 パスタを口に描き込んで、確かに美味しいとは思う。

 けれど、思ったよりも目の前の古都音が、ねえ。

 

「古都音って、思った以上に普通の女の子らしいな。……俺の普通が違うからかも知れないけれど」

「思ったよりも庶民的、でしたか?」


 俺は頷いた。確かに、そう言われればYesである。

 箱入り娘だとずっと思っていたからな……。

 

 古都音は、にっこりと笑うと上品な仕草で口に手をやった。

 何気ないはずなのに、妙にその仕草が色っぽく感じて俺は息を飲む。

 それほどに、だ。今まで何度も何度も、彼女の姿は見てきたというのに。

 

「お父様の教育方針なのですよ」

「……そうなのか」

「どうしました?」


 俺は、自分の中でも何が起こったのか分からず、首を傾げる。

 今さっきまで、俺は……ええと、何を考えていたんだっけ?

 

 古都音のことに感心して、そうなんだーと思って。

 次の瞬間、彼女が飛んでもなく魅惑的に、蠱惑的に見えてしまった。

 同時に、自分の中で感情が溢れ出す。

 

 そう、この感覚は……。この感覚は、蒼穹城たちと対峙したものによく似ていて、それでいて確実に違う何か、だ。

 あの時が「負の感情」の噴出だとすれば、これは……なんだろう?

 

「何処か苦しいのです!?」


 自分の頬になんらかの液体が流れてくるのを、古都音に指摘されてからやっと俺は、自分が泣き出していることに気づいた。

 いや、嗚咽ですらない。ただの涙、涙。

 

 俺にはそれが何であるのかすら分からない。

 心的な病気なのかもしれない……とも考えたが、理由がわからなかった。

 

 周りの客たちは、俺の状態には気づいていないと思う。店員も気づいておらず、目の前の古都音のみが少々慌てたような、それでいて何処か心配するような顔をしている。

 

「なんでもない。……心配かけてすまない」

「いえ。……ご飯が終わったら、少しお散歩でも行きますか?」


 その言葉に、俺は頷くほかなかった。

 さすがに他の人に気付かれるのは良くない……だからこそ、だからこそ。

 俺は平常を装うことにした。

 

 本当、俺はどうしてしまったんだろう?

 今まで、こんなことに心を動かされることなんてなかったはずなのに。

 

−−−


「……で、どうしたのです? 落ち着きましたか?」


 今、俺は古都音に連れられて、公園に来ていた。

 ここまでくる間、俺は感情を抑えようと悪戦苦闘していたし、今だってしている。

 目の前の少女に、なんと接すればいいのかわからないのだ。今までは普通にできていたことも、先ほどの異変で全てが変わってしまったような、そんな感覚がした。

 

「……なんだか、暗いですね」

「よく分からないんだ」


 俺は、目の前にある噴水を見ながら呟く。

 自分の気持ちがよくわかっていない。この前、俺は初めて古都音を「守りたい」と感じた。でも、何故そう感じたのかは説明できなかった。

 今回の感情は、なんと言えばいいのかわからない。どうしても、そんな状況の自分に驚いてしまう、動揺してしまう。

 

 今まで一極化してきた強い「復讐心」の他に、もう一つの「説明できない」感情が頭の中で勢力を増してきている。

 

「……落ち着いて、ゆっくりでいいんですよ」


 そう言って、古都音はそばにあったベンチへ俺を案内する。

 案内されるがまま座った俺を、古都音は両手を広げて包み込んだ。

 

「……古都音は、どうして俺にそうしてくれるんだ?」

「ゼクス君と一緒に居たいからです」


 他に何の理由が? と。

 逆に問い返すような表情で、古都音はこちらを見つめていた。

 一緒に居たいからです、か。

 

「……俺も、古都音と一緒に居たい」

「そうですね。ずっと、ずぅっと……数十年先も、一緒に居たいと思っています」


 私は、だから親にゼクス君を紹介しました、と。

 だから、今もここにいます、と。

 貴方に欠けた感情が有ったとしても、私が教えます、と。

 

 古都音は、俺の耳にそう囁きかける。

 彼女の髪の毛から柔らかい香りが鼻腔をくすぐり、声は響きを残して俺の鼓膜を振るわせる。

 

 目の前の少女は、俺を包んだままでいた。

 柔らかい感触は、カナンさんや冷躯さんと同じもの。その言葉も、何もかもが、俺を震わせてしまう。

 

「この感情は? 何なんだ?」

「愛情、です。損得なんて関係ありません、私は……」


 古都音は、そう言って照れ臭そうに笑っていた。


 ……俺は、彼女からもらってばっかりだ。

 そう考えて、どうも申し訳ない気持ちになってしまう。

 

「……俺は、古都音の隣に居たい」

「はい、傍にいてください」


 古都音は、いつまでも古都音だった。

 まだ数ヶ月しか経っていないし、歳も1つしか離れていない。

 けれど、その包容力というのは……。

 

「ゼクス君がしてほしいこと、なんでもします。……だから、私からは一つだけです」


 きっと、彼女の中にも沢山悩んでいることがあるだろう。

 俺に言えないこともあるに違いないし、俺だって彼女に言えないことは沢山ある。

 

 もっと、古都音の事が知りたいと思った。こう、一緒に居たいと思って、彼女に何をしてやれるか考えたこともあった。

 今、気づく。


 アマツや冷撫れいな達ともっと笑い合いたいと思った。

 斬灯りとと、もっと過ごしたいと思った。

 古都音ともっと一緒に居たいと思った。


 

 俺もきっと、「愛情」とやらを取り戻せたと……気づくことができた。

 これが、彼女たちを守りたいという意味だったんだろう。


 

「9月の決闘は、絶対に勝ってくださいね」



 心の中で、刀眞胤龍が笑っていた。優しく微笑んで、俺に対して手を振っているようだ。

 

「僕はもう、ここには必要ないね」と、言い残して刀眞胤龍が居なくなる。


 目の前が真っ白になって、俺は……安らかな気持ちの中、意識を失った。

 

−−−


 眠るようにゼクス君が意識を失ったことに、私は気付きました。

 彼の中に、何か有ったのでしょう。私では考えられないような変化が、彼の中に有ったのだと私は推測して、嬉しくて。

 

 ええと、さてどうすればいいのでしょうか?

 意識を失ったというよりも、寝てしまったようです。それなら少し……。

 

 いつも通り、ゼクス君が大好きな膝枕で良いですかね?

ゼクスの混乱は、古都音の愛情とよく似ていますが

それを説明できなくて混乱中ですね、彼


次回更新は明日の予定ですが、もしかしたらもう一話かけるかも知れません。そろそろ5章も終わりです。第6章はvs刀眞遼の予定です。

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