第133話 「デート 4」
2016.03.22 1話め
ゼクスと終夜先輩が、レジから「アーク」の出入り口へ向かっていったのを確認して、俺と月姫詠斬灯は顔を見合わせた。
先ほど盗み聞きした言葉によれば、これから昼食へ向かうらしい。
俺たちも近くにある何処かで昼食をとるか、と相談した結果。
とりあえずは、二人の後をつけるという結果になったのだが……。
何故、店の出入り口すぐ前でゼクスは立ち止まっているのだろう?
「……様子が変ね」
月姫詠が眉を顰め、よく見えないと爪先立ちになる……が、それも効果をなしていない。
さすがに少々背が小さすぎないだろうか。……俺と並んでも、兄妹としか周りの人には認識されないのではないかとある意味で安堵してしまう。
そんなことを考えながら様子を伺う。……俺が見るに、店の前に5人ほどの男達がたむろして2人と対峙していた。
まあ、【顕装】を購入できるものは家が裕福に決まっている、というのが考え方の一つなんだろうな。ある程度の、余裕がある家庭しか買えないのはよく分かるが。
それに、終夜先輩が容姿端麗という部分もあるのだろう。それもよく分かる。
……分かるのだが、この前全国放送で中継されて、相手を圧倒していた人物がその隣にいる、ということは気付けないのだろうか?
中継を見ていない、と言うのなら仕方ないが。この「アーク」の向かい側に巨大なモニターがあって……そこにも中継されていたといわれている。
巨大モニターのほとんどでも中継されていた事実だ。恐らく、引きこもりでさえ知っているのではないかという情報である。
「あーあ……」
俺が状況を説明すると、月姫詠は「終わった」とでも言いたいような顔でため息を吐いていた。
……まあ、そうだよな。
ゼクスは分別のつく人間だとは思っているが、「敵」と判断した時の態度が異常なのだ。
そして、彼には……「大切な人」が増えてしまった。終夜先輩に何か軽率な行動を取れば……。
ゼクスは、黙っていられるほど我慢のできる人間ではないだろう。
「どうする? 何か起こる前に止める?」
「この状況をどうやって説明するんだ? ゼクスからの印象が良くないぞ」
月姫詠は大事にならないようにしたいらしいが、そうすると俺たちはどうやって説明すればいい?
俺が月姫詠と一緒にいるという状態も、同じ店から出てきたという状況も。
後をつけてきたことを説明しなければならないのはキツい。
「うー、それは。そうだけれど」
「なら、どうする?」
とりあえず、様子を見ようじゃないかと俺は提案した。
もしかしたらゼクスも、……暴れないでくれるとありがたいのだが。
「様子を見たいのは山々だけれど。……相手が先に気づいてくれるとありがたいのだけれど?」
……気づいてくれ、ゼクス。
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俺は目の前の暴漢らしき男たちを、ただじっと見つめていた。
一言、感想を言わせてもらえるとするならば、「弱そう」。
正直、【八顕】【三劔】はおろか、榊兄弟よりも弱そうな格好をしている。
少なくとも、榊兄弟は弱く覚悟も足りなかったが……暴漢たちが古都音に対する視線は完全に下卑じみたものだ。
不思議と怒りは湧かなかった。まだ、この程度ではということだろうか。
では、何をしたらいいのかな?
相手がそうやって視線で語りかけるだけではなく、ナンパの一つでもしてくれれば「正当防衛」をしてやるんだが。
そうこう、睨み合いをしているうちに相手側にリーダーらしき男がやってきた。
明らかに他の人と顔色が違う。他の男たちはその人に対し、「どうしたんですアニキ?」とか「いいカモじゃないっす?」とかお伺いを立てているが。
リーダーと思われる男は、俺を見るなりペコペコとし始めた。
「お前らも頭下げろ」
「は? アニキ、様子がおかしいっすよ」
「……【三劔】:八龍家の長男だぞ!」
おお、やっぱわかってる。俺の予想は間違っていなかったようだ。
それにしても、そんなにビビらなくてもいいような気がするが。
「あの人は、俺たちの存在を一言で消せるような地位の人なんだぞ知らないのか!?」
……それは少々高評が過ぎるのではないか。
俺は次代候補だからそれは不可能だよ。そこまで凄いのは父さんだろうし、父さんはそんなことをしないだろう。
俺はぺこぺこしている男と、その男の姿を見て困惑しているチンピラたちの隣を、俺は古都音の手を掴んですり抜けるように通った。
彼等が俺に危害を加える事は無いだろう、そう確信できる。
だから、それでいいのだ。
「あの方たちは、良いのでしょうか?」
「問題ないだろうとは思うよ。さて、どこかご飯でも行きますか。案内してくれるか?」
やっぱり平和が一番だな、俺も戦闘にならなくてよかったと思うよ。
平和が一番ですねー(棒)
昨日はtrpgやってて小説を書く暇がなかったという……。
次回更新は明日です、多分。




