第130話 「デート 1」
2013.03.16 1話め
「……おおー」
俺は、目の前の少女に目を奪われていた。
そこにいるのは、いつも通りこちらに柔らかな微笑みを与えてくれている少女だ。終夜古都音。
今日こそ候補生服でもなく……、結局こっちの家に訓練しにやってきた時は動きやすいように候補生の制服で着ていたからな、ほんとうの意味で私服は初めてだ。
「どうですか? ……何時もでは着ないようなものを着てみたのですが、可愛いです?」
「うん」
言葉では表しきれないほどの美少女、というのが言葉としては正しいか。
白に黒をアクセントとしてつけたワンピースに、麦わら帽子。
いかにも「清楚」という感じの姿だ。……うーん、ワンピースか。でも古都音はどこか知的な感じもするし、スーツも似合いそうだけれども。
……16歳の少女だし、それは流石にやり過ぎか。
「ああ、とても良く似合っている」
「それは良かった……です」
俺が素直に感想を述べると、少々顔を赤くして彼女はうつむいた。
自然な動きで俺の右手を握ると、「とりあえず歩きましょうか」と周りを見た。
ここは家の前……というわけではなく、アガミが指定した待ち合わせ場所だ。アガミは俺が待っていると、古都音をつれて「空」から飛来、人々が驚いているうちに「あとはまかせた」といって帰っていった。
これで、まあ……俺達は【顕現者】と周りに教えたわけではある。が、【顕現者】が認められつつある今なら特に問題はない。
写真を撮っている人間は多かったけれど。それも素晴らしくアガミに注目が集まっていたから、逃げてきたのである。
「どこか行きたい場所とか、あります?」
「終夜グループの顕装専門店」
デートには絶対に行かないだろう場所に、俺は行きたいといった。
2人が楽しめる場所、と確信できるのが底しかなかった、というのが正しいだろうか。
だてその言葉を聞いた瞬間、古都音の目がすごくキラキラしているのだから。家があれだから、やっぱりそれなんだろうなぁ、と。
「良いんですか? まさか、デートで行けるとは思っていませんでしたが」
「好きそうだもんな」
「家柄がそうですし。私も【顕装】が大好きです」
やっぱりそうなのか。なら、早くそっちに向かったほうが良いかな。
俺も何回か行ったことがある……気がするし、地図を見て一応確認した。
さて、向かいますか。そこまで時間はかからないし、早く向かおう。
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……俺、颯は朝10時、毎日の訓練疲れで久しぶりに寝坊をしていたが、携帯に見たことのない番号からの着信に気づき、通話に出た。
「もしもし」
『寝起きで悪いけれど、善機寺颯よね』
「……その声は、月姫詠か」
向こうから「そうよ」と声が聴こえる。今日はゼクスと終夜先輩がデートに向かう日だ、なんかあまりやる気が起きない日でもある。
『ちょっと、尾行してみない?』
「……メリットがない、俺は寝たい」
『そう言わずに、ね? 貴方だってゼクスの事、気になるんでしょう』
ゼクス、という言葉に対して俺はぴくりと反応した。電話であるため、相手に表情は見えていないが。
それでも、しかし……どうやって返事を返そうか。
……これは絶対に、巻き込まれるのだろう。
「……気にならないと言われたら嘘になる。俺はゼクスと、その周りを守る」
『でしょう? 私もゼクスくんが気になるし、一緒に行こうよ』
ほら、やっぱり、俺は知っていたぞこの事を。
俺は布団を押しのけながら、胡座をかきつつ返答した。
「……待ち合わせ場所を教えろ、準備する」
『はいはいー! じゃ、私がそちらの家に行くわね』
時間は私がついた時でーと、適当なものがやってきて通話が終わる。
……俺ははあと溜息をつき、そのまま立ち上がる。
「……二度寝したい、このまま寝たい。というわけにも行かないか、さっさと着替えよう……」
月姫詠家の場所は何処だったか、流石に俺とゼクスの家ほどは近くないだろう。【八顕】ほどの家など流石に目立つだろうし、俺の実家も巨大な武家屋敷だ、人々が考える以上に広いし目立つ。
しかも、月姫詠が徒歩で来るわけがないのだろう。車ということならば、もしかしたら1時間もかからない。
なら、今から準備はしたほうが良さそうだ。
「颯、起きたのか」
「……おはよう」
と、父さんがやってくる。何かニヤニヤしており、着替え途中の俺を「お?」「お?」とキョロキョロしている。
……なんだろう、この酷いものは。
「玄関に美少女が来てるぞ」
「はやっ……。月姫詠か?」
「そうだよ」
速過ぎるぞ、流石に……。
昨日はすみませんでした。
次回更新は明日です。大分喉も治ってきました、心配してくださった方々、感謝いたします。




