第013話 「実技テスト消化中」
「私の対戦相手、どうも初心者らしいのです」
実技テストが終わった俺たちと合流した冷撫は、学生証を見て気の毒そうな顔をしていた。
今回のそれは完全に実力テストだ。今自分が持ち合わせている能力を使いこなすことが最低条件となる。
そのせいで、冷撫みたいな「親にしごかれてきました」みたいな候補生と初心者が対峙すると結果はすでに「目に見えている」という状態になってしまう。
少し可哀想にも見えてくるが、冷撫の対戦相手には両手を合わせておこう。
「……アマツは?」
「蒼穹城。まあ、本気は向こうも出さないだろうから、こっちも出さないがな」
アマツは完全に、手加減をする気でいる。
実力テストと言っているから、ある程度の戦いを試験官に見せておけばいいと。
確かに一理ある。特に【八顕】の本気なんて、幼少期から訓練を受けてきたんだから「この学園に来なくて良くない?」と他の人達が考えるかもしれない。
【八顕】の人がこの学園に入学するのは、別の目的があるんだろうと俺は考えているけれど。
「まあ、いいか」
そんなことよりも、準備を始めないと。
俺は手始めに、練習として幾つかの【顕現】を行った。
【顕現】は基本的に「式」を詠唱して発動させる。
「元素の属せしもの、名乗るしは【焔】。顕現せし様のそれは【大太刀】。今ここに現われよ、顕現者の証が一つ、【朱鷺丸】」
アマツが唱えているのは、日本に伝わる伝統的な『顕現式』だ。
彼は神牙家だからこれを使うことが多いけれど……正直詠唱に時間が掛かるからあまり推奨はできない。
最初に属性を指定して、次に【顕現】がどんな姿を成すのかを指定する。
最後に唱えるのは自分でつけた【顕現】の固有名だ。
そのため、ただひとつとして同じものは存在しない。
たとえ同じ顕現式を唱えようが、それぞれ個人が頭で思い浮かべたものを具現化するため多少の差異は生じてしまう。
ちなみに俺は、属性を指定した時点で【顕現】が始まるから式は必要ない。というか生身では構築しても無駄だから【神牙結晶】を使っている。
「うん。問題なし」
地面から焔が噴き出し、アマツが焔の中へ手を突っ込む。
それに呼応するように焔は終息へと進み、最終的に彼の手にあるものは1本の巨大な刀であった。
「それ、本戦で使うとかじゃないよな?」
「使わないさ。これはパフォーマンス用だ」
そう言われて周りを見回すと、確かに他の候補生たちがこちらを見て唖然とした顔をしている。
見せびらかすためのものかい。そうかい。
「冷撫はそれ、認可されてるよな?」
「勿論です。抜かりは有りません」
先ほど、試験官に出力のチェックもしてもらいましたと冷撫は胸を張る。
……うーん、目に毒だ。
冷撫は、ギリギリ【顕現者】と認められているけれど【顕現】の三大要素である顕現力が弱い。
そのため、それを補うために【顕装】を扱っているということ。
顕現力が弱いと【顕現】の形が曖昧になるし、密度が低いから途中で折れたりもする。
それを補うために、一定量の顕現を流し続ける代わりにはっきりとした形を維持し続ける、それを使っているというわけ。
「初戦は誰なのでしょう?」
きょろきょろ、と辺りを見回す冷撫。
単純計算で25戦だからな……。実技の方は全員合わせても30分とかからなかったのに、テストの予定が正午から18時になっている意味がわかると言うもの。
俺は学生証を取り出し、試合順を確認する。
……12。ちょうど真ん中辺りだな。
善機寺颯には特に恨みはないけれど。
見せしめとなっていただく。
取り巻きの1人が八龍家の息子に倒されたと見せびらかせば、相手も少しはビビってくれるんじゃないかな。
警戒するかもしれないが、それはそれで都合がいい。
圧倒的な力を持って、相手が対策を考えたうえで叩き潰す。
「時間まで体力を蓄えるから、後で起こしてくれ」
その辺にあったベンチに座って、とりあえず俺は寝ることにした。
てか、話をしているのはいいけれど立っているだけでも、体力は徐々に使用されていくものだ。
座ったほうがいい。
と、後ろから声。
「およ? アマツじゃないか」
「アズサか。久しぶり」
振り向くと、そこに居たのは1人の少女である。
髪の毛は黒。けれど一部に……というより所々金色でメッシュが入っており、どことなくアマツと同じ雰囲気を醸し出している人だ。
それなのに、髪型は所謂「お嬢様結び」である。
ちぐはぐな印象をうける人だ。
野蛮で知的なアマツとよく似ていて、気品ありつつ自由といった感じか。
顔含め、容姿はお淑やかな感じ。
「そこにいるのは君のご友人かな」
「あぁ。こっちが八龍ゼクスで」
頭を下げると、彼女は「須鎖乃アズサだ、よろしく」と手を差し出してきた。
それに応えると、彼女はにこりと笑ってアマツの次を、待つ。
冷撫とも挨拶が終わったのを見て、須鎖乃さんは時間を確認する。
「あー。試験の時間だ」
「初戦なのです?」
「なのだよ」
冷撫の言葉に芝居がかったような返事をし、試験のフィールドまで走りだす少女。
その眩しい後ろ姿を見つめながら、嵐のような人だと確信した。
「今気づいたのですが、須鎖乃ってあの須鎖乃でしょうか」
「この日本に『須鎖乃』を名乗る人なんて一家しかないぞ」
ああ、やっぱり【八顕】の一角なのね。
彼女の試合を見てからとりあえず、準備しようかな。
次の更新は明日未明になるかと思われます。
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