第129話 「閑話:蒼穹城親子」
2016.03.15 1話め
かなり遅れた。申し訳ないです
蒼穹城家の自宅では、進が、【氷神切兼光】を手に修練場で鍛錬を重ねていた。
【顕煌遺物】を持ち、振る。カネミツの指示に合わせ、太刀筋を修正する。
そんななか、離れた携帯端末から着信音がなって、何事かと進はそれをとった。
向こうから聞こえてくるのは、数カ月ぶりの見知った声。
切羽詰っているようにも聞こえ、進は首をかしげた。
「もしもし」
『遼だけど、今すぐテレビつけろ』
「今ちょっと鍛錬中なんだよね」
鍛錬、という言葉に向こう側で、遼が言葉を一瞬詰まらせたような反応を見せ進は訝しげに顔を歪める。
どうも、自分は今まで鍛錬の「た」の文字もやって来なかった人間だったから、あまりにも不自然に聞こえたのだろう。
そう判断して、しかし進は次の言葉を待った。
『良いからつけろ。八龍ゼクスと善機寺颯が決闘をするらしい』
「ほう」
そこで、やっと進の意識はテレビの方に向いた。
しかし、修練所には勿論テレビはなく、仕方なく彼は【氷神切兼光】を仕舞ってテレビのある部屋へと向かった。
「お父様、テレビを……って、ああ」
「今しがた、獅子王から連絡をもらった」
テレビのある部屋、大きな和室には劫がすでに居た。
すでに決闘は始まっている。テレビには、【開放】で榊無雲を弾き飛ばすゼクスの姿と、竜巻で榊有雲を拘束する善機寺颯の姿があった。
決闘が行われている間、進も劫も言葉を一つとして発さなかった。
ただ、「決闘」というよりは「蹂躙」に近い、圧倒的な光景にショックをうける。
いや、進はこの光景を何度も見てきた。目の前でやってきた光景だ。
だからこそ、じっと見つめる。
分析するようなそんな顔に、やっと終わった蹂躙という名前の決闘から目を話しながら、劫は進に話しかけた。
「……進。正直、私は進に八龍家と戦ってほしくない」
「何故?」
「正直、私は怖い」
劫の顔は、恐怖と悲しみに暮れたものであった。
それをみて、訝しげな顔をするのは進。
自分の父親が、どうも情けないような、そしてどこか八龍家というワードを怖がっているような、そんな感覚がしてしまったのだ。
「そして、進は同じような道を辿ろうとしていると、私は考えてしまう」
「…………」
進は、父親の言葉を一度心のなかへ飲み込む事にした。
しかし、釈然としない。今までの蒼穹城家というにはあまりにも違和感の目立つものだったそれに、進は声を低くする。
「蒼穹城家が、負けを認めろってこと?」
「そういうわけではない。……ただ、年々質が落ちているのは、認めざるをえないことだ」
それは血脈の質でもあれば、また気高さの質でもあった。
いまの蒼穹城家に、初代当主國綱の高貴さはなく、また正々堂々さもない。
「そんなの……!」
「なら、何故初代以降1度も【髭切鬼丸】に所有者が居なかった?」
「……それは……!」
劫は、【神座】から國綱の意志を聞いている。
だからこそ、悔しくもあった。自分たちが【髭切鬼丸】を満足させられず、同時に他人へ奪われてしまったことに。
しかも、それが自分たちと敵対するということに、一番の危機を感じる。
「そういうことだ、分かってくれ……進」
「……いやだ」
しかし、進はそれを承諾しなかった。
「僕は、もう八龍ゼクスには負けない。それだけ」
「進!」
制止するような声に、進はしかし……愚かにもそれを無視した。
心にあるのは、打倒八龍ゼクスの心だけである。
「……負け犬には、僕はならないよ」
次回からデート、だけれどデート中にもいざこざはあると思います。
今更新した分が昨日の分なので次回更新は今日です。
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