第127話 「好意の自覚」
2016.03.12 2話め
謝罪の見届けは颯に任せ、俺はというと古都音と一緒に居た。
はっ、としたのが決闘が終わった直後だ。流石にやり過ぎたというのが感想である。
「やってしまった……」
怒りに任せて、「敵」でない人に対し色々やらかしてしまった、と思う。
【神牙結晶】の効果があってあれなのか、それとも他になにか原因があって、【結晶】が効果をなさなかったのかはわからない。
とにかく、俺は颯にまかせて古都音に目線でサインを送り、逃げるように会場から出て行った。
「お疲れ様です、ゼクス君」
「うん」
本当は膝枕して欲しかったのだけれど、どんな目があるか、周りにあるのかはわからないからな。
変なことをせず、こうやってベンチに2人だけで座っていても、充分に彼女を感じ取ることは出来る。
「やりすぎ、かね」
「……いえ。……ゼクス君が私達の為に怒ってくれたのですもの」
古都音は、そう言って俺の頭を撫でている。
ああ、落ち着く。子供扱いされているのかもしれないけれど、やっぱりこうされるのは落ち着くものだな。
「もっと、斬灯になにかやってやれたんじゃないか、って考えちゃうんだよね」
「……なんとも言い難いものですが、私は。ゼクス君に関係することなら、そこまで優しくなれませんよ」
古都音は、何を言いたかったのか俺には理解できなかった。
優しくなれない、ね。俺関係のこと? でも、俺には優しい。
俺を取り合うという部分でだろうか?
「【顕現】でも戦闘はできませんが……。物理攻撃は私にもできるので」
「そうだったな」
顕現力で間接的に【威圧】で攻撃しながら、素手で殴る。
素手のパンチも底まで強いものではないだろう、【顕現者】とはいえ、古都音は女の子だ。
でも、【威圧】という部分だけでもかなりのものだとおもう。
俺だったら立ち直れないかもしれない。
「でも、俺は古都音に傷ついてほしくないから」
「それはお互い様のことです。私なんて、ゼクス君の傷を癒やしたいと思っていますし?」
やっぱり「聖女」なんだよな。
古都音、やっぱり古都音は優しすぎる。
「愛情」というモノを俺に与えてくれた1人だ。俺も……。
「充分癒せてるよ」
「ふふ、それなら良かったです」
でも、安らかな時間はこれで終わる。
周りがざわざわとし始めて、マイクを持った女性と、カメラを構えた男性が数名、目の前に進み出てきたからだ。
中継中のランプが点いている。……蜂統家が見たら、さぞかしブチ切れそうな光景である。
「日顕テレビの者ですが、インタビューをしても宜しいでしょうか?」
俺は、いきなり向けられたカメラに対して、何も思うことはせず「遠慮します」と刺激しないように伝えた。
今はそんな気分ではない。何故会場を出て古都音と一緒にいるのか、この人達はまったくもってわかっていないらしい。
「では、……ええと、そちらに居る少女は?」
「私も遠慮して欲しいですね。あと、カメラを向けないでいただけるとありがたいです」
引き下がらないのなら、と俺は自分の小型レコーダーが録音をしているのを確認した。
全国中継か何かはしらないが、「インタビュー宜しいか」と訊きながらカメラを向けるのはどうなのだろう? 断りづらい状況を作りたいのかどうかはしらないが、本当にやめて欲しい。
俺は詳しいことを知らない。もしかしたら父さんから許可を受けているのかもしれないけれど、それでも古都音は関係のない話なのだ。
ていうか、本当はやくどっか行ってくれないかな。
……およ? このカメラ、もしかして【拒絶】すれば行けるんじゃないか?
俺はアナウンサーや他の人に気づかれないよう、自然な動きを意識して【神牙結晶】を外し、【拒絶】を発動する。
指定はカメラと俺達。顕現力が空気を伝ってカメラにとりつき……。
「あれ?」
途端に、カメラを構えていた男が慌てだした。
画面に俺と古都音が映らなくなったのだろう。
「故障?」
「いえ、ええと。2人の姿だけ……!?」
俺たちは霊的な存在ではないぞ。
と、一団が慌てている間にさっさと退散する。
だって、映らないのならいたって意味ないものね。
「古都音、2人で出かけたいな」
「ゼクスくんからそのような言葉を聞けるとは思っていませんでした。嬉しいです」
そういって、俺の手を握る古都音の姿は、やはり美しいものであった。
そんな彼女の笑顔を、いつまでも見ていたいと思う。
園彼女のとなりに、いつまでも居たいと思う。
ああ、これが。
好きな人が出来る、という感覚なんだな、と。
俺はやっと、自覚できた気がした。
「ゼクス、君?」
気がつけば、俺は立ち止まっていたらしい。
先ほど【神牙結晶】をとった影響下、溢れ出る感情を抑えられていなかった。
目の前の女性が、少女が、たまらなく愛しく感じる。
――感じてしまう。
「体の調子でも悪いのですか?」
「……いや、大丈夫。そろそろ謝罪も終わった頃だし、戻ろう」
俺は、先程まで決闘していた、会場の方を指差した。
パーティはまだ続いている。アマツたちが邪魔というわけではないが、2人でいられる時間は今のところ、すくない。
だから、きちんとデートの時間を用意して、2人で要られるべき時間を作ろうと思う。
だから、今は帰らなきゃ。
ゼクスがやっと好意に目覚めた。
次回更新は明日です。
第5章は次デートして、終わり。第6章は今月中に始まります、多分。
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