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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第5章 夏休み
122/374

第122話 「八龍という存在」

2016.03.07 1話目

「古都音……さん?」


「……急にごめんなさい。でも、こうすると温かいですよ?」




 古都音は、気がつけば斬灯りとを抱きしめていた。


 斬灯が人の体温を感じ、同年代の少女にそうされた経験のない斬灯は、不意を突かれて動揺してしまう。




 しかし、古都音はあくまでも温かい人間だった。何をするでもなく、ただ、斬灯を優しく包み込む古都音に、斬灯はその意味を理解して涙を流す。




「……うん、うん。ありがとう……」


「気が済むまでどうぞ」




 実際は、ゼクス君がしてあげるべきことなのでしょうけれど、と古都音は考える。


 しかし、今の彼に余裕はないから。【守護者】の素質が表に出始めたとしても、それはまだ歪んでいる。




 自分ですら理解しきっていない感情で、相手を守るのは難しい。


 古都音はそれをよく知っていた、そして、今のゼクスの状態も知っている。




「古都音さぁん」


「はい」


「……これだけは約束してくれる?」




 何分経っただろうか、斬灯は泣き止みどこか決意したような、それでいて甘い声を発した。




「絶対、ゼクス君を幸せにして。……ゼクス君が悲しんでいるところを見たら、私は容赦なく奪いに行くから」


「……安心してください」




 それは宣戦布告かもしれない、また他の意味があるかもしれない。


 古都音は構わない。少なくとも、生きているうちにそうするつもりは毛頭ない。




「落ち着いたよ」


「……ならよかった。……戻りますか?」


「うん」




 立ち上がった斬灯は、古都音に柔らかな笑顔を向けた。




「ありがとね、古都音さん」


「……いえいえ」


「私も、ゼクス君の為に何かしなきゃな……そうだ!」




 ――古都音は、嫌な予感がして。


 無理やりそれを閉じ込める




「私達にしか出来ない応援、させて頂くね?」




 それでも、嫌な予感は拭いきれなかった。






−−−




 パーティ会場から徒歩10分ほどの場所、古都音たちのいる噴水と逆方向の場所に、大人たちは集まっていた。待ち人をしている人々は、空から水色の透き通った翼を持って飛んできた男が困惑した顔で一同を見つめていることに、心底滑稽な気持ちになった。




「なんだよ急に呼び出して……。ザイラ、スメラギさん、おろし先輩、ミソラ……勢揃いじゃないか」




 困惑しきった冷躯に、ザイラは軽く笑い、スメラギと颪は同じような動揺の顔を浮かべ、ミソラはただ一人顔に好奇心をありありと浮かべている。




「ちょっと困ったことが起こってね。ゼクス君の父親である、冷躯が必要になって」


「ん?」




 スメラギの言葉に、冷躯は「はて?」と首をかしげる。ゼクスに関係すること、というのが先ず思い浮かびすぎてどれかわからない。


 


 ザイラがいるところから、斬灯がゼクスを好いているということだろうか。そこらへんは冷躯は、まったく心配していなかった。


 ゼクスは分別のつく人間だと、冷躯は確信している。取っ替え引っ替えはしないだろう。




 また、スメラギがいる事から独自に開発し、ゼクスにだけ支給されている【Neシリーズ】の事かとも考えた。


 どうやら、そのことらしい。冷躯はスメラギから話を聞き、首をかしげた。




「【Neシリーズ】の開発援助?」


「【始焉】では物足りないでしょう?」




 ザイラが申し出たのは、開発の援助というよりは協力といった関係であろう。日本の月姫詠と言われれば、ネジ一本から重機まで、あらゆるものを開発する工業の大企業だ。


 本社では纏められた多くの子会社の管理とともに、月姫詠デザインということで和洋を折衷したデザインを多く取り扱っている。


 


 総合的に見れば終夜(ヨスガラ)グループを一息で消し飛ばせるほどの超大企業が、わざわざ個人のために協力を申し出ること、そのこと自体が普通では考えられないことであった。


 スメラギは、目の前の女性が何か企んでいるのではないかと警戒を強めることしかできない。


 


 冷躯は、そんなスメラギとは裏腹にザイラの服装がかなり大人しくなったことに気づいた。




「……確かに、凡庸な機能に毛を生やした程度のものだ。使いやすさと耐久力を重視しているため、滅多なことでは壊れないし、メンテナンスも必要ないが一般的な【顕装】の部類に入る」


「だから、『ゼクス君』のためなら資金援助と技術の強力を、ね」




 そんな2人に言葉を挟んだのは、やはりというか冷躯だった。


 素直に感想を述べる。




「ちょっと待て。みんなゼクスを気に入りすぎだろ」


「気に入る気に入らないじゃなく、彼を見るとどうしても手助けしたくなるんだよねぇ。うんうん、古都音ちゃんの気持ちがよく分かるよぉ」




 今のところ、状況が特殊だから唯一2家に対抗できる人間は君たちだけだと。


 ミソラはそうとも言った。そもそも八龍=御氷(みこり)という存在が特別で、自分たちはそれと友好な関係を保ちたいというのも一つ。


 どうせ、今回八龍ゼクスが刀眞(とうま)蒼穹城(そらしろ)の2家を強く敵視しているのであれば、援助して弱めてもらったほうがこちらとしても有難いし、というのが一つ。


 


 ミソラのことばに、冷躯は頷き「なるほどな」と言葉を促した。


 どうやら、ゼクスという存在はどうも神牙派には都合の良い存在らしいと悟り、ただ「傀儡にはさせないからな」と釘を刺す。


 その言葉を聞いて、ミソラは「こちらも子の親、だからこそ資金でなく物をやるのさ」と答えた。




「ところで、まだ未公開の研究結果というか、そこから出来た副産物があってね」




 そこで、ミソラが取り出したのは一つの小さな結晶であった。


 白い半透明な「神牙結晶」とは違い、今回は虹色。冷躯たちが見ているうちにも、少しずつ色を変えていっている。


 


 目を白黒とさせる一同に、ミソラはニヤリとわらいかけた。


 


 




「これを今度作る、終夜グループの【Neシリーズ】で使ってみたいのだけれど、協力してくれるかな?」

次回決闘


次回更新は……明日です、申し訳ありません

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