第121話 「斬灯の嗚咽」
2016.03.06 1話め
「あ、ゼクス君、斬灯さん。おかえりなさい」
俺達が戻ってくると、古都音はいつもどおりの柔らかな笑顔で迎えてくれた。
ああ、やっぱりこの笑顔だ。安心する。
で、斬灯さんといえばそのまま古都音を呼んでいた。
「ただいま。……早速で悪いんだけれど、次は古都音さんを借りてもいいかな?」
「はい、私は構いませんけれど」
でも、安全性はどうなんだ? 斬灯さんって強かったっけ?
やっぱり、授業で対戦できないっていうのは大きな問題なぁ、実力が測れないんだもの。
……でも、大丈夫だろう。
「安心して、私が代わりに守るわよ」
アガミがその言葉ひとつで頷いたところを見るに、かなりの実力を持つらしい。
【三貴神】だもん、当たり前だよな……。
「なんて言われたんだ?」
「告白されたよ、斬灯さんに」
2人の姿が見えなくなったあと、父さんにそう訊かれ俺は正直に答えた。
その言葉にインパクトが有ったのかどうかは知らないが、父さんは頭を掻き、アマツとアガミは口をあんぐりと開けて、颯は空を仰いでいる。
スバルは「ふぇあ!」と声を上げ、楓と冷撫はどう反応すれば良いのかわからない、といった反応だった。
「うへぇ」
「でも、断った。俺にはもう古都音がいるし」
すぐに状況を説明すると、父さんはわかっていたような顔をしていた。
まあ、父さんも少なくとも3人以上の女性から母さんを選んでいたわけだしなぁ。
そうやってやってきた人なんだから、分かるんだろうな。
「最初から秤には乗らなかったか」
「斬灯さんにはもうしわけないけれどもね」
最後らへん、斬灯さんの顔は半泣きだったと思う。
やっぱり、わかっていたとはいえ悲しいのだろう。俺も、悪いことをしたかもしれない。
けれど、斬灯さんを受け入れてしまうと、冷撫に悪いし。
古都音を傷つけてしまうから。
「俺から一つだけ言わせれば……。断ったからって、それが終わりじゃない。……好きになってくれた人全員の分、ゼクスは背負わなきゃいけないんだ」
「……父さんらしい言葉だね」
「まあな。……そのために俺は、守護者になったんだ。勿論、俺を父と慕ってくれるゼクスのぶんも、俺は背負っているさ」
くっそ、やっぱり父さんは格好いいんだよなぁ。
どういう思考回路をしているのか俺にはよく分からないけれど、やっぱり格好いい。
俺の目指すべき人間は、本当に1人だけなのかもしれない。
全員の分、背負いながら戦い生きる、か。
難しいことだが、やってみるとするか。
---
斬灯が、古都音を連れてきた場所は先程、斬灯がゼクスに告白した場所と同じだった。
全く同じ場所、同じベンチに2人は座り、斬灯は口を開く。
その声は妙に震えてもおり、小さなものだった。
「あのね、古都音さん」
「……はい」
「私、ゼクス君に告白したよ」
斬灯の言葉に、古都音の瞳が一瞬細くなる。相手がどんな意図でそれを発したのか、理解しようと意識をそちらに向けているのだ。
しかし、斬灯は悲しく笑っていた。少なくとも、目の前の人を傷つけないように。また想い人のことを考えながら。
「あまり身構えないで。……すぐに断られちゃった。何の迷いもなかったよ」
古都音からの反応はない。古都音はゼクスを信じていないわけではなく、勿論何事だって信じている。
しかし、ここは状況が違った。今までの全てが、どうにかなってしまいそうな気がして、古都音はゼクスを見やる。
ゼクスは本来優しい少年だ。特に仲間思いが強く、それを守るためなら命だって掛けるだろう【守護者】の素質を充分に持っている少年だ。
ただ、今は復讐に取り憑かれて鋭くなっているだけで、日常と非日常の落差が激しすぎる、と古都音は結論づけている。
「初めて、【三貴神】でなく【八顕】でもない貴女が羨ましく思えたんだ」
「そんなことありませんよ。……貴方達は、最終的に日本を支える柱です」
古都音は、斬灯の言わんとする事がよくわかっていた。斬灯は【三貴神】で、自分の知らない様々な情報を掴んでいるのだろうと。
それはこの世の末路に関わることや、未来に関わることでもあったりすることは漠然だが終夜家という立場からも聞いている。
しかし、それゆえに。彼女たちは自由が少ない。【三貴神】は揃いもそろって全員が強力な顕現特性を持ちあわせており、まず一般の授業には参加できない。
座学も、特別な措置を取られて授業に行かずとも、7年間自動で進学出来るようにされている。
それは、外に向かい様々な調査をする際、彼女たちの力が必要だから。
それ故に、たとえ想い人が出来たとしてもそれと関わる時間は極端に短いのだ。
「私は……、もうちょっと普通の生活がしたかったな」
斬灯の切なる願いに、古都音は言葉を発することが出来なかった。
自分達では当たり前であることが、目の前の可憐な少女には出来ない。
それは、須鎖乃アズサも、亜舞照鳳鴻もそう。
「私は、古都音さん。貴女と恋のライバルをしたかった」
……でも、それはもう、叶わない。
斬灯は、自分がいつの間にか泣いているのを感じて、困惑してしまう。
今まで、そんなにゼクスの事を思っていたか、と。
嗚咽が溢れる。涙は次々と頬を伝い、地面に落ちる。
――古都音は、何を言うことも出来なかった。
もうちょっとだけ、斬灯メインは続きます。
次回更新は……今日としたいけれど体調の問題もあるので明日になるかも。
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