第120話 「斬灯の告白」
2016.03.05 2話め
「八龍君、最近楽しい?」
月姫詠斬灯に連れて行かれるように、俺は彼女のあとについて入った。
完全に扇情的すぎてヤバイ格好をしているから、きっと声をかけまくられるんだろうという予想ではあったが、さすが【三貴神】。
全く話しかけられない。俺がそばにいるとか関係なく、寧ろ俺がくっつき虫か何かみたいに感じ取られるほど、全くと言って視線を感じない。
とにかく、月姫詠、月姫詠、月姫詠。
普通に美少女で間違いないからな……仕方ないか。
「こっちは何時も忙しいの。……【三貴神】って色々やってるんだよ?」
「例えば?」
そうこうしているうちに、人気の少ない場所に来た。やっぱり神牙家ってすげえや、家に噴水があるんだもの。
勿論、パーティ会場の中心からかなり離れている、ということもあってか人はほぼいない。
周りを見回しても、俺達だけだ。
「遺跡の調査? とか?」
「はてなを浮かべられても」
【三貴神】が忙しいのは知っている。でも、それを次代である彼女が一緒にいるのがちょっと良くわからない。
ただ、学園にこなさすぎて馴染みが無いっていうのは問題だと思う。
「今はまだ言えないけれど、きっともっと、八龍くんが強くなるなら知らないといけない世界だよ」
そういって意味深に笑う少女の顔は、やはり魅力的だ。
古都音の美人、というものではない。子供が妙に背伸びして、大人ぶったような感覚がする。
と、噴水のそばにあるベンチに座った少女、月姫詠斬灯は俺をじっと見つめた。
「……あのね」
前置きをして、そっと一息。意を決したように、彼女は俺をもう一度見つめる。
目は心なしか涙を含んでいるようにも見えた。
「私、八龍君のことが好き」
「えっ」
その言葉に、俺はどうしようもなく絶句する。
は? 一体何を言っているの? だとか。今までそんな素振りを出してきていない彼女が、何を……と。
「貴方が古都音さんと結ばれたのは、知ってるの」
俺が何を言いたいのか、彼女は理解しているようだった。
ただ、それでも我慢できなかったように、顔を赤らめてこちらをを見つめている。
「ごめんね、困らせるようなこと言っちゃって。でも、最近あまり会えなかったから、ね? 私も……ずっと貴方を支えたいとは思ってたよ? でも、アピールする時間も、機会もなかったの」
彼女の声が段々と萎んでいくのを感じて。
最後は、声が半分涙目になっているのも感じて。
俺は、気がつけば月姫詠に向かって頭を下げていた。
「済まない、月姫詠」
言葉では内包しきれなかったのだろう、彼女の気持ちが痛いほど分かったから。
だからこそ、俺は頭を下げることしか出来ない。
終夜古都音からの告白と、月姫詠斬灯からの告白は意味が完全に違う。
前者も後者も「支えたい」のは一緒だろうが、しかし恐らくスケールが違うのだ。
だって、神牙側とはいえ企業の令嬢と【三貴神】の一角だぜ……?
「俺が古都音を思う限り、月姫詠の思いには応えられない。済まない」
「……斬灯って呼んで」
それは、彼女の一つだけの、願いだったのだろうか。
俺はよく知らないけれど。とにかく、彼女はそう言った。
「斬灯……さん?」
「おけっ」
にかっ、という表現が似合う笑いを見せて、ベンチから彼女は立ち上がる。
そして俺をじっと見つめた。その顔は、どんな感情を内包しているのか、俺にはわからない。
「それだけで、私は充分だよ」
「話、これだけ?」
「うんっ。なんだかすっきりしちゃった」
戻ろう? と斬灯さんは俺の手を引っ張り、会場を空いたほうで指差す。
……当たっているが。「何が」とは言わないが、あたっているけれど。
まあ、良いか。俺は俺を好いている人が悲しんでいるのはあまり見たくない。
俺が傷付けるのは、「敵」だけでいい。
でも、彼女の事を受け入れられないのは、結局彼女を傷つけていることになるのだろう。
……どうしようかな?
「これからも宜しくね、八龍君。……あ、私もゼクスって呼んでも良い?」
「ご自由に」
俺が頷くと、斬灯さんは輝くような笑顔をこちらに向けて、並ぶように歩いていた。
……多分、本当の意味でこう並ぶのは無いのだろう。
そう考えると、妙に寂しい気分になった。
圧倒的潔さ
次回更新は明日です。咳出過ぎて喉から血が出た……。
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