第012話 「逸般人の自己紹介」
「諸君、自身が所持している学生証を見てほしい」
担任教師、神御裂律火先生は俺たちを見回して、見本を提示するように同じものを見せる。
「2ページ目に、『試験認可物』という部分があると思う。そこに表示されているのは、事前に申請し認可された『持ち込み可能』なものだ」
表示されていないものは原則で不可能だと説明をされる。
俺の欄には『神牙結晶』とあった。
恐らく、これは【顕現】に関連する認可物だろうなと。
冷撫は【顕装】を認可されているはずで、周りをちらりと見てみれば、何人か困ったように慌てている人もいる。
申請を怠ったんだろうな、と。それとも有力者だからどうせ認可されると思ったのだろうか。
まあ、担任が普通の人間だったら根気負けするかもしれないけれど。
こちらの担任は【八顕】の一角だ。
無理だな。
「試験の種類は2つ。実技と実戦だ」
と、説明が進んでいく中俺は欠伸をしつつ、適当に窓の外を見つめる。
今日も空は青く、雲一つない。
試験内容は冷撫から、予め説明をもらっている。
実技は……苦手だな。実戦なら何とか成るんだけれど、俺が5年前に『素質なし』となった理由は実技の測定方法にある。
「実戦では1対1の模擬戦闘を行う。その都度、学生証に対戦相手の表示が出るから覚悟しておくように」
教室の中で何人かが、「ひっ」と引きつるような声を上げる。
多分、【顕現】についての実戦を行ったことがない候補生たちがあげたのだろう。
八顕学園に入るくらいの【顕現者】候補なら、そんなことはないだろうと身構えていたが。
……よく考えてみれば、昨日の先輩方もそうだったな。
とても実戦慣れしているとは思えない動きだったなと。
あの時、【顕現】を発動しようとも思っていないようだし、やはり振り幅が凄いのかもしれない。
「1人1戦だ。勝敗は気にせず、今使えるだけの力で望んでくれ」
考え事をしているうちに、話は終わったようだ。
その後は1人ずつ軽い自己紹介をしたり、この学園の詳しい説明をしたり。
なんというか、「普通」の学園生活らしいなと。
「見事に、すげー人しか居ねえ……」
隣の席でアマツがそうボヤいていたが、お前自身もその「すげー人」だからな?
【八顕】の人たちはちゃんと「【八顕】所属」とはっきり言うし、【三劔】も宣言はしている。
それに煽られてか、「○○財閥の……」とか言っているんだから、少しくらい危機感を持てよとツッコミを入れたくなるな。
11家は、公開しても問題ないほど自分たちが実力を持ち合わせているから言ってるんだぞ。
……まあ、このクラスにそんな人はいないんだろうけれどもさ。
変なことを考える輩なんて。
冷撫はそこら辺分かっているようで、特に何も言わず名前だけ公開して帰ってきた。
彼女を変な目で見ている人が数人存在したが、彼女は意にも介さない。
「別段特筆するようなことは有りませんからね」
顕察官一家が特筆できないわけはないが、な。
と、鈴音の次は善機寺だったようで。
蒼穹城進とつるんでいる一人が、教室の壇上に立つ。
「善機寺颯だ。【八顕】所属。よろしく頼む」
頬には顎から鼻にかけて巨大な傷跡が走っている。
髪の毛の色は濃い黄緑……松葉色に近い。瞳の色もそんな感じ。
とても、「宜しく頼もう」と思えない無愛想で、怖いフェイスだ。
何だあの傷。
「特にこちらから言うことはない」
何に不機嫌なのかわからないが、そう告げてさっさと取り巻きの方へ戻っていく。
……特に気にしなくていいか。
彼は俺に何もしていないし。
そう考えて、俺は次の人を見やる。
「蒼穹城進です」
特に耳に入れないまま机に突っ伏して。
そして寝た。
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「んああ、疲れたぁー」
大きな伸びをしてそんな声を上げているのは、神牙アマツである。
ちょうど今、実技テストがおわったところだ。
試験内容は「お題を出され、そのとおりに【顕現】するまで」だ。
お題を出されてからの経過で「発動までの時間」と「顕現力」を測り、その形状で「正確度」を測る。
今回は「近接武器」という、特に縛りのないものでよかった。多分、このクラスではトップ……とは行かないが、上位に食い込めたと思う。
本当に困ったのが5年前ので、「剣」というのが俺にとっては面倒なものである。
俺の弱点というのは「発動までの時間」が速過ぎる点だ。
詠唱を始めた頃にはもう完了している、なんてことがザラにあるから困る。
あの時は「剣」と言われたのに「斧」「槍」「鎖鎌」と、見当違いのものを3回もやってしまったあとで完了した。
でも、今回は【神牙結晶】もある。
訓練の成果もあったし、運が良かったからお題も簡単なものだった。
隣に居るアマツなんて、「遠距離武器」だったからな……。
弓ならともかく、アマツは難しく考えすぎて「銃」を【顕現】したらしい。
しかも、試験官が驚くような速度で。
そりゃ疲れる。俺だったら発狂するかもしれない。
流石エリート。
「んあ、そんな事はどうでもいいんだよ」
我に返ったように、俺の方へ向き直るアマツ。
「実戦の対戦相手、誰よ?」
もう更新されているはずだぞ、と言葉をもらって俺は学生証を確認した。
新着メッセージ1件と表示されている。メールの機能もあるのか、この端末みたいな学生証は。
「……ほう」
対戦相手の名前を見て、俺はなんとも複雑な気分になった。
同時に、元兄さんや蒼穹城進に見せびらかすのにいいチャンスだなとも考えた。
「どしたー?」
「善機寺颯」
学生証をアマツに見せた俺の顔は、恐ろしいほど笑顔が浮かんでいただろう。
それが自分にも自覚できるほど、俺は口角を釣り上げていた。




