第119話 「斬灯の誘い」
2016.03.05 1話め
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。主催の神牙光空ですー」
そうこうしているうちにミソラさんの挨拶が始まる。思ったよりも間延びした、いつもどおりの声だ。
何時もこういう感じなのか、と考え周りを見回すと、頭を抱えている人が数名、苦笑が数名。
やっぱり、会場の雰囲気にそぐわないのね。
「長ったらしい挨拶もいらないので自由にどうぞ、と言いたいのは山々ですが、今日はプログラムが一つだけ出来ましたー」
プログラム? 何かあったか?
気になって首を傾げたが、思えば自分のことだった。
「午後3時から、八龍ゼクス・善機寺颯ペアと。榊有雲・無雲ペアのタッグ決闘を行いますー! テレビの人も来てくれているし、生中継でやってくれるらしいから気合入れてね!」
うげ、テレビきてんのか。
適当に、本当に練習台にして適当なところでやめさせようと思っていたんだが、これじゃあ手加減してられないじゃないか。
そもそも、榊兄弟の実力もわからない。相手はこちらを分かっているんだろうけれど、恐らくハイライトでしかしらないから情報を全て掴まれているわけじゃない、か。
でも、テレビが来ているのなら刀眞や栄都が見ていないという可能性をとりあえず排除したほうが良いか。
奥の手は出来るだけ使わず、【始焉】や【髭切鬼丸】で蹂躙する方法をとったほうが良いかもしれない。
「では、ミソラからでしたー! かしこまっていた皆さん、解散!」
こうして、挨拶は終わった。
俺は自分に大きな注目が集まっているのをじっと自覚しながら、逃げるようにアマツ達の一団に戻る。
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料理を取り分けながら、俺は古都音とアガミと一緒に居た。父さんも、なんか挨拶につかれたようで先ほどふらふらと合流する。
バイキング形式で、自由にやれということらしい。
たまに神牙家の使用人が、ウエイトレスに扮して飲み物を運んでいるがその程度だ。
自由だな……。
「大事になっちゃいましたよぅ」
「まあ、決闘が一番手っ取り早いからな、今の御時世。力の強い人が勝つ、それが正義? ……まあ、俺と決闘してくれる奴なんて居ないんだけれど」
嘆く古都音に、父さんがさも当然のように話をする。
この社会は大丈夫だろうか、本当に。中世か何かに逆戻りしたのかと、曖昧だけれど考えてしまうような社会だ。
手っ取り早いからって殺し合いするなよな。……俺はこの制度を有りがたく使わせていただいている身だ、文句はあまり言えないけれど。
何より、「決闘では制限を事前に設けないかぎり、なにやっても良い」という制度がぶっ壊れ。
俺は好きだよ、そういうの。不法地帯になるからな、本当に。
「ゼクス、乗り気じゃないな」
「敵じゃないからね。練習台に成るのは有り難いけれど」
そうそう、敵ではないのだ。まだ、相手は敵じゃない。
神牙の分家というのが、俺の思考を麻痺させているのかもしれないけれど。
まあ、血筋血筋って言っている人ほどそれにそぐわなかったりするし……。
「ゼクス君は、自分への攻撃に鈍感ですよね」
っと、古都音に本気で心配された。
自分への攻撃に鈍感、か。うーん、返事に悩むところだ。
「そうなのかな。……だって、そのままじゃん。俺は今も冷躯さんの息子だけれど、この血はどうやったって取り消せない」
「……ゼクス。あー……いや、なんでもない」
父さんは、そんな俺を見て悲しそうな顔をし、何かを言いかけたがいうのをやめ、首をふる。
父さんがそんな顔をするのは初めて見たが、俺はなにか変なことを言っただろうか?
「あっ、さっき振りだね、八龍君」
そう言って近づいてきたのは月姫詠斬灯である。
今日はいつもの改造制服でなく、きちんとした赤い着物だ。
花が散りばめられており、彼女の巨乳をしても違和感があまりない。
何よりも、扇情的な身体を強調しているその服に、少々危機感を覚える。
大丈夫なのか、これで?
「どうかな……母さんのデザインなのよ」
「似合ってるよ、うん」
俺は素直に答えた、つもりだったのだが。
月姫詠は顔を赤らめて、少々もじもじしながら古都音を見つめる。
古都音はきょとんとしていた。
「あのね、古都音さん。ちょっとだけ……八龍君をお借りしても良い?」
「どうぞ。私にはお構い無く」
にこにこ、と笑って俺を送り出す古都音。
うーん、月姫詠さんは何を考えているのかね?
俺にはよくわからないけれど。……うーん本当によくわからないな。
とりあえず、アガミが古都音のそばにいるから彼女の安全は確保されているだろう、父さんもいるし。
これなら安心だろう。俺はどうなるか知らないけれど。
「じゃあ、ね、ちょっと歩こっか」
そう言った月姫詠の顔は、実に幸せそうだった。
「まるで」斬灯がヒロイン。
次回更新は今日のつもりです。
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