第118話 「追い打ち好き」
2016.03.04 2話め
「榊さんに質問だけれど、君たちはこの騒動を大きくしたいのかな? だって、古都音さんを堕ちた、って言ったもんね。じゃあ僕達もゼクス君側だから堕ちたのかな? かな?」
榊兄弟は、「面倒な人が現れた」と引きつった顔で鳳鴻を見つめている。
俺……八龍ゼクスは、正直。「お前らがもともとの原因だ」と横槍を入れたかったが、今はやめておこう。
鳳鴻はそれにしても楽しそうにおちょくるなぁ。多分楽しいんだろうな、心底から。
「いや、俺は」
「無いんだったら、何でこの一団に絡もうと思ったの? ……まさか、ゼクス君に仲間が居ないとは考えられないよね?」
口ごもる榊有雲に、鳳鴻は言葉をかぶせるようにして追撃を加える。
考えてみればもっともな話だ。アマツが俺と仲がいいことくらいはわかっていたんだし、いや、それも出来ないのか?
「神牙家当主が2人を歓迎している以上、嫌なら君たちが出て行くべきなんじゃないかな」
「で、でも!」
ごねているのかよく分からない榊に、鳳鴻がしびれを切らしたのか一気に真顔になった。
うわ、真顔怖い。怖いです鳳鴻さん。
「要件だけ言って欲しいんだ。こちらは」
「蒼穹城を倒したっていうのも嘘に決まっている。だから俺達はお前たちに決闘を申し込みたい」
うわ、そこはまじめに言うんだね、はっきりと言うんだね。
俺は驚くやら呆れるやら、感心するやらで少々言い返す気がなくなり。
しかし、オニマルが毒づく。
『大馬鹿者なんじゃな、こやつらは』
『仕方ないよ。……ちょうどいいよ、タッグ決闘の相手にさ』
そうそう、正直練習台が欲しかったのだ。冷躯・カナンの両親ペアは強すぎてなんだかよくわからないことになっていたし、手加減されているはずなのに俺達は吹っ飛んだりしていた。
アマツと冷撫がタッグで戦ってくれる、というのもあったけれど。
あれもあれで、アマツが強すぎて駄目だ。こんな感じで双子とか、本当に丁度いい練習台じゃないか!
「助命と武器の制限は?」
「助命あり、武器制限ありで」
「その程度の覚悟か、……ゼクス、俺1人で十分だ」
榊兄弟の、まさかのビビリに俺が嘆息していると、隣に居た颯がため息を付きながらそう言った。
確かに、なぁ。助命ありは最悪のことを考えてokとしても、武器制限有りってことはつまり、俺達にハンデを追わせるってことでしょう?
こちらが? 決定するのなら? 全然構わないのだけれど相手が指定するだろうし。
「……お前達の馬鹿にした蒼穹城進でさえ、助命なし・武器制限なしだった」
「負ける覚悟出来てるんだったら最初から辞めたほうが良くないか? こちらも練習にもならないのならやっても意味ないし」
あ、間違って「練習」って口走っちゃったよ。
相手がぽかん、としているのをさてどうするか考えていると、次は俺の後ろのほうで声がした。
噂をすればなんとやら、冷躯さんである。
「ん? どうしたんだ?」
「冷躯さん、彼等がゼクス君を『所詮刀眞の血筋』って言ったのです」
古都音……。古都音の説明は確かになんにも間違っていないんだが、言い方が酷い。
何が酷いって、父さんが確実に怒るような事を言ってのけている。
父さんは俺の事を本当の息子のように思っていて、「八龍」の子だと断言している。つまりそれはさっき知ったことでもあるが、「御氷」の跡継ぎでもあるわけだ。
そもそも、日本が今まで血筋を重視した歴史なんてそんなに無いんだけれどもね。戦国大名とかは、養子のオンパレードだったわけだし。
家を継ぐ、というのは重要視されていたけれど、正直家名が引き継がれるのならそれでいい、と考えている人は少なく無いだろう。
「日本が今まで血筋を重視したことなんてほぼ無いんだけれど、それは知ってるのかな」
ほら、父さんも同じようなことを言っている。榊兄弟は、亜舞照鳳鴻のみならず八龍冷躯もやってきたことに虚を突かれているのか、何も言い返してこなかった。
がしがし、と父さん。乱暴に頭を掻きながら言葉を続ける。
鳳鴻もそうだが、父さんも追い打ち好きだな。敗走した敵の背中に向かって笑いながら突進していきそうだ。
「まあ、良いや。で? ゼクスに文句があるってことは、僕に文句があるってことだよね?」
その言葉に、榊兄弟と。今しがた駆けつけた榊夫妻らしき男女が青ざめた。
榊家当主なんかは、顔が蒼白いを通り越してなんかムラサキになっている、気がする。
「何かあれば聞くよ? ……その言葉が酷いものだったら、ミソラに許可とって榊家ごと潰すけど」
怖え……。
最近ギリギリが多くなった気がする。風邪が治ったらいつものペースに戻れるのかしら。
次回更新は明日。
蒼穹城があんな感じだったんですけど、あれ一応【八顕】なんですよね。
神牙家の分家が可哀想。
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