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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第5章 夏休み
109/374

第109話 「【透過】と警告」

2016.02.29 2話目

 いつもの白い空間。目の前に居るのはオニマルで、俺は体育座りでいじけている彼女を見つめながら溜息をつく。


 どうも最近ちょっと機嫌が悪い。


『最近、使ってくれないのじゃ。【始焉】ばっかりずるいのじゃ』

『使ってるじゃん、カップ麺の蓋とかさ』

『元来の、【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】の使い方をして欲しいのじゃ!』


 駄々をこねる幼女に特段なにも感じず、俺は首を振った。

 

 確かに【顕煌遺物】は、武器としてはかなり優秀な部類に入るだろう。

 【始焉】よりも遥かに切れ味は良いし、顕現力を注ぎ込まなくとも使用できる。


 けれど、授業は? 学園での模擬戦は?

 切れ味が良すぎて使えないのだ。本当に。


『不憫に感じるのじゃ』

『なら、力をおくれよオニマルさん』


 でも、彼女の使いみちはある。

 俺は頭を描いて、次の決闘には彼女を使うことを約束した。


 でも、間合いを不定かにする【伸縮】だけでは、【顕現属法ソーサリー】には勝てないだろうし、精々ごまかし程度だ。

 栄都えいとアインにとは早退できるかもしれないが、俺は基本的に力押しでしかない。


 技術……技術はないな、善機寺は刀を振れそうだが……オニマルもそこまではやりたくないだろうし、やっぱり俺が使うことにする。


『……まあ、【守護者】の欠片は見えたからの』


 少々納得して、デレたオニマルは自分に言い聞かせるようにしながら「うんうん」と頷く。

 ぴーんと、先程まで体育座りでいじけていたとは考えられないほど直立で、無い胸を張った彼女は、俺に両手を差し出すように指示した。


『【透過】はどうじゃ? 我を半透明にすることで、更に間合いを測りにくくするんじゃが』


 そこに現れたのは、白い光の塊に似た物質だ。

 恐らく手に触れることは出来ないのだろう感覚。どこか、聖なるもののような感覚もする。


 その光は、俺の両手に染みるように消えていき……。

 俺は心に違和感を覚え、これが顕現特性を手に入れる感覚かと自覚した。


 誰かに与えられる感覚というものは、自分で顕現特性を習得するものと違う。


 前までの刀眞の生活に、5年前は戻りたかったから【巻き戻そう】として、【書き換えよう】として。

 今は、その人々を【拒絶】した。


 俺の顕現特性はこういうことなんだろうな、と。


『……後で試してみるよ』

『これで我の出番も増えるかの?』


 オニマルは不安げだ。何を不安に思っているのかは分かるけれど、残念だ。


『……結局切れ味が鈍くなってないから、意味ないんだよなぁ……』

『うわぁぁぁぁん』




 ――結局、俺が地団駄を踏む彼女をあやすまで、体感3時間はかかった。


---



「……【神座】が、私を呼んでいる」


 私……蒼穹城そらしろこうは、心に大きな違和感を覚え目を覚ました。

 夜の2時。隣にはつかさが、急に起き上がった私を不思議そうな顔で見つめている。

 顔は不安そうにゆがんでおり、一体何ごとかと外を警戒するような動きも見られた。


「どうなされたので?」

「司、少々【神座】の間へ行ってくる」


 呼ばれた、と話をすると司はこくりと頷いた。

 正しくは呼ばれた気がした、だが。


 【神座】には初代当主國綱くにつな様の魂が宿っているとされている。現代当主であり、【神座】の所有者でもある私は時たまそれを感知することが出来た。


「お気をつけて」

「……問題ないさ」


 不安げな顔が変わらない司に笑いかけ、私は【神座】の間に向かう。

 勿論、着替えてからである。


 離れ……ではなく地下に存在する「そこ」へ向かうと、【神座】は光っていた。輝いているという表現のほうが正しいかもしれない。

 そして、男の声が頭に直接響いてくる。


『劫。……【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を奪われたそうだな』

「…………」


 初代の声だ、と判断できたのは今までも何度か聞いたことがあるからか。

 私は身を固くし、その場へ跪く。


 なにも、口にだすことが出来ない。そもそも、何故【神座】が知っているのか、私にはわからなかった。

 神牙かみきばに優位を渡すのが嫌で、先代は【顕現オーソライズ】についての研究を牽制し続けていたが、そのせいか大幅に日本の研究は遅れている。


 それでも、当代ミソラが追い付きつつあるのは評価すべきところか。


『【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】から離別の挨拶をもらった』

「……はい」


 やっとのことで絞り出した言葉は、頷くような肯定。

 【顕煌遺物】同士で会話が出来るのだろう、確かに6月末――。


 八龍ゼクスは、蒼穹城國綱の墓に来ていた。

 私たちに拒否権はなく、そのとおりにしていたがそういう事なのだろう。


『でも、蒼穹城そらしろ家に居る時よりは楽しそうだぞ』


 國綱様の声は、厳しくもあり優しくもあった。

 厳しいのは私達、蒼穹城家に対して。國綱様以降、一度も真の所有者が現れなかった私達への叱責。

 優しいのは【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】に対してだろう。所有者が見つからないというのは、【顕煌遺物】にとっては奴隷のように連れまわされていることと等しい。


 それが敵対する家のものであろうとも、國綱様は本当に【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を大事にしていたと聞くし、所有者と巡り会えたことを賞賛しているのだろう。


『それよりも、だ。次代に悪い虫がつこうとしている』

「と、申しますと?」


 次に聞こえたのは、不穏な言葉だった。

 悪い虫、というのは一体どういうことだろう。私ははっとして、思わず聞き返す。


 たしか、最近(しん)は目覚めて、リハビリに励んでいる。

 片目が義眼で片腕が義肢、しかも【顕現オーソライズ】が拒絶されている状態でも、驚異的なスピードで回復していた。


 夏休みが終われば、学園へ復帰できるだろうと言うくらいに。

 性格上の問題も、大分落ち着き払っている。少なくとも、前みたいな傲慢さは鳴りを潜めていると言っていい。


『とにかく、次代には目を光らせろ』


 しかし國綱様は何か引っ掛かりを感じるようだ。わざわざ私を呼ぶということは、それだけ蒼穹城家に危機が迫っているということとも取れる。

 私は立ち上がって、「はい」と返事をした。


 進のことは信じたいが、國綱様の言葉は聞き流せないものだ。



 ……蒼穹城にこれ以上危機が迫ると、あとがなくなるかもしれぬ。

國綱さん登場。【神座】にはそれぞれの初代が人格としています。


次回更新は今日。


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