第108話 「現状報告」
2016.02.29 1話目
「くっそ、疲れた」
顕現力も意識を失う直前まで使い、体力も精神力もほぼ無くなった俺達は、倒れこむように地面へ崩れ落ちた。
あれから……7時間。今は夜の8時である。
正直、死ぬ、死ぬ。
でも、大分コツはつかめた……と思いたい。
俺は大きなため息をつきながら、まだ元気いっぱいで息すら上がっていない父さんたちを、恨めしげに見つめた。
なんでこんなに体力あるんだ……?
本気出していないからか?
「この調子程度なら、あと3日はぶっ通しで戦えるな」
颪さん、頼むからそんなこと言わないでくれよ。
何よりも怖いところが、どう見ても回復特化のスメラギ氏ですら余裕綽々であるところだ。
それだけ鍛錬を積めばこういう人と肩を合わせて戦えるんだろう? と考えるとな……。
「さて、今日のおさらいと行こうか。それぞれの状況を報告」
「……俺は【開放】を【顕現属法】で発動するために、これから毎日夜3時間【威圧】の訓練を古都音と一緒にするよ」
俺が【開放】と名付けた【顕現属法】だが、古都音の言ったとおり【威圧】の応用だった。
だから、それを習得する過程で一緒に2つ覚えてしまおうというのが今週の目標。
正直顕現力を使いすぎるのが怖いけれど、そこは古都音が「いい考えがあります」だそうで。
「一週間しか無いことをちゃんと考えた上で頑張れ、死ぬ気でな」
「分かってる」
【威圧】は外に垂れ流すだけで良いけれど、【開放】は体の周りから相手の顕現力を追い出す感じだ。
ちょっと違うけれど、多分色々と助けになるだろう。
【顕現属法】を手に入れれば、その後の戦術も広がるものと思いたい。
父さんは不満足気に頷き、次に颯へ視線を向ける。
颯はうつむいて、状況を伝えた。
「……【大竜巻】を練習中。目標は2つ同時発現の各個操作を。……現状はまだまだ、1つを操作するので手一杯で……大きさも足りない」
すっげえ悔しそうな顔をしているのは、それほど今回の訓練で納得がいかなかったからだろうか。
俺は自分のことに手一杯で、本当に何も見れてやれなかったんだけれど。
ぎりぎりと歯を食いしばっている颯を見ると、どうしても心配になってしまう。
彼でも、こうやって感情を表に出すことはあるんだーって考えてしまうんだよな。
颪さんは、そんな颯をみて「俺レベルは数十年かかるぞ……」なんていっていた。1つ操作するだけでも、それを習得するためには半年ほどかけてじっくりと覚えなければならないようなものを、俺たちはたった1週間でなんとかしようと思っているんだから、当たり前か。
「颯君に関しては、熟練の問題だからどうしようもないというのが一つだ。この1週間だけでなく、決闘の当日までずっと訓練してくれ」
父さんの結論から言えば、焦っても意味が無いということだろう。
そして、最後にアガミ。アガミは決闘には参加しないけれど、これからは古都音の護衛だけではなく【三貴神】の護衛も更に増えるらしい。
ていうか、【三貴神】って何しているんだろう?
「ええと。俺はひとつふたつなら破られても構わないように多重楯の、【顕現】を成功させた。今のところは冷躯さんの攻撃を2秒は耐えられるけれど、おそらく5秒も持続させてたらぶっ倒れるな」
どれだけ放出しているかは知らない。
【顕現】っていうのは、発現した瞬間に多くの顕現力を必要として、持続させるものだ。
なのに、それだけ使わないといけないってのは……ちょっと。
使いすぎ。
「攻撃の場所を見極める事が必要だな、アガミ君は。広範囲に広げすぎで、古都音ちゃんを守るにしてもそんなには要らない」
果たして本当にそうなんだろうか?
……ああ、父さんたちは父さんたちの基準で話をしているからだろう。
そして、それは俺達も彼らの域に達せれるという期待を込めて、かもしれない。
「ごはんよ」
俺は重い体を引きずるようにして立ち、母さんの方を見た。
隣には奏魅さんと、古都音がいる。
今日の夜ご飯はなんだろうか。……このまま部屋に帰ってベッドへダイブしたい気分だが、それを堪えアガミと颯を引っ張り起こす。
「よし飯だ」
夜ご飯……良い響きだ。しかも予想するに、女性陣のお手製だろう。
食う、食うよ。
……カナンさんの料理は久しぶりだ。
言葉にしがたい美味さがあるんだよね、流石史上最強の冷躯さんの、胃袋を掴んだだけある。
「さて、俺達も行きますか、先輩」
「だな」
にこにこと上機嫌になった父さん、颪さん、スメラギ氏が家に向かうのを見て、俺たちも付いて行く。
……これが日常なら、俺の心も安らぐというのに。
蒼穹城の、東雲の、刀眞の、栄都のいない生活。
やっぱり最高です……!
復讐が終われば、毎日こういう生活が待っているのだ。
バトルシーンの練習がてら、模擬戦を近いうちに書きます。
次回更新予定は、今日です
↓人気投票早くも50票です。冷躯さんスピンオフはこのままだと完全新作になります。




