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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第5章 夏休み
106/374

第106話 「幸せにしたい人」

2016.02.28 2話目

「うっ」


 やわらかな光に包まれたような気がして、俺は目を開けた。

 周りを見回し、ここが稽古場だと知る。


 たしか、俺は颪さんの【顕現属法ソーサリー】を食らって、それを突破しようとして……。

 そこからどうなったんだっけ?


「簡単にいえば、ゼクス君は颪さんの言うとおりにそれをなそうとして失敗したのです」

「あー」


 確か、顕現力を爆発させるイメージをして実際にしようとしたところ、失敗して破裂させたのか。

 そのときに自分へダメージを受けて、そのまま意識を失ったようだな。


「難しいな、新しい【顕現属法ソーサリー】を取得するのって」


 俺は自分の周りに漂っているだろう顕現力に、語りかけるように話をする。

 顕現力を常に確認できればいいんだが、それもそうは行かない。

 常に確認できるということは、相手にも見えているということ。


 自分の攻撃が通らなくなる可能性のほうが高いか、それなら試行錯誤しながらやったほうが良いだろう。


「古都音は回復してくれたんだな、ありがとう」

「いえいえ」


 古都音が笑うと、後ろのほうで花が咲いたような気がした。

 ついニヤニヤしてしまうような、美しい顔。俺は恐らく、これから彼女の笑顔に支えられていくのだろうと感じることが出来る。


「いまのは完全に失敗だな。……実戦でやってたら死んでた」

「イメージを聞く限り、恐らく【威圧】の応用だと思います」


 颪さんが感想を述べ、古都音が案を出す。

 【威圧】の応用か。……でも、俺は古都音と違って顕現力を「コントロールしよう」と思ってしているわけじゃないからな……。

 完全に直感的なものだ、だから難しい。


 古都音や颯はそれが可能なのだろう。

 実際に颯は未完成ではあるが、父さんに攻撃される瞬間にタイミングを合わせて威力を軽減させる、という方法をとっていた。

 無詠唱で。


「直ぐに出来る人なんていないが、1ヶ月以内に3つは覚えてもらう」

「はっ!?」

「その後は颯君と一緒に連携訓練だ。それぞれ尖りすぎてるから調整に半月はかかるだろう」


 今回の訓練は、勝利を更に決定づけるものと颪さんは厳しい顔でそういう。

 勿論、それで勝利が決定するとも限らないが、と。


 相手が急激に強くなって、こちらが調子をこいて惨敗するなんてことはどうしても避けたい。

 そもそも、負けるわけには行かないのだ。


「古都音ちゃんを幸せにしたいだろ?」

「それはもちろん」

「刀眞との生活よりも、自分と暮らしたほうが幸せに出来ると思うだろ?」


 父さんは、炊きつけるように俺に話を振った。

 古都音が「刀眞」の言葉を聞いて肩を震わせるのを見、俺は頷く。


「ああ」


 勿論、復讐も忘れない。復讐と決闘を同時に行えるのは、蒼穹城そらしろの時もそうだったが俺にとっては都合がいい。

 多くの人に支えられても、相手を赦すことはない。


 でも、殺しはしてはいけない。

 それをすると、父さん母さんに迷惑をかけるだろうし。


 父さんは、養子である俺を八龍家の跡継ぎにするつもりなのだろう。

 その期待にも、答えていきたい。

 【八顕】と違って【三劔みつるぎ】は、次代がその称号を得るのにふさわしくなければ除外される。

 八龍家という地位を次に託すためにも、父さんは決してそんなことを言わないが期待に答えなければならない。

 

「自分の手で幸せにしたいだろ?」

「うん」


 俺は頷いた。本人が隣にいるというのに。

 古都音は、こちらに顔を向けて目を白黒させている。


 父さんは、俺の目が、言葉が本気であることをしっかりと確認したあと、スメラギ氏に笑いかける。


「うん、親馬鹿気味になるがゼクスなら大丈夫だ」

「そのくらい分かる。……ゼクス君、古都音を頼む」

「はい」


 古都音が頬を熟れたリンゴのように染めて、うつむいているのを見ながら俺は頷いた。

 動じない俺を興味深そうに、父さんたちは見つめて。


 そして、父さんが口を開いた。


「もう充分だ。今は自覚できてなくても、ゼクスは古都音ちゃんに愛情を持てている」


 古都音が、うつむいたままプルプルと震えだした。

 一筋の液体が地面に落ちたのを見て、ここで初めて俺は動揺する。


 彼女が、泣いている。けれど、それは悲しみによる涙ではないような気がした。

 スメラギ氏とカンナギさんは優しく微笑み、カナンさん奏魅かなみさんはそれぞれ父さんと、颪さんを見つめてクスクスと笑っていた。


「……頑張るよ」

「なんか、冷躯を見ているみたい」

「学園時代の冷躯と颪ってこんな感じだったのよ?」


 やっぱりそうですよね……。

 父さんにやっぱり似ているのかもしれない。


 俺は古都音の涙を拭って、立ち上がった。

 目の前の八龍冷躯と、善機寺颪に近づくために。


「さて、実戦で叩き込む。分かったら向かい合え」

「ああ」


 ……兎にも角にも、今まで以上に強くならなければ道はない、か。

次回は閑話入れて、刀眞家の様子を。

更新予定は今日です。


作者の読み方がわからないという方、マイページに明記しておりますのでそちらをどうぞ。


↓相変わらず冷躯さん強いですね。

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