第103話 「カナンと奏魅」
「お、八龍家が見えてきたぞ」
車に揺られること約30分。東京の中心部を更に北上し、向かう先は【顕現者】の多く住んでいる場所である。
ちなみに、この近くにアマツの実家と、颯の実家もある。
俺は平然と、3ヶ月ぶりに帰ってきた我が家に対して構えていたが、近づいてくるに連れて隣に居る古都音と、颯が顔をしかめて行くのはどういうことなのだろう?
「すみません、ゼクス君」
「はい?」
「アレは普通の家庭ではありません」
古都音の口が開かれる。信じられないものを見たような口調に、俺は首を傾げた。
……三階建ての一戸建てが一つだけだけれど、何か問題があるのかな?
だって、周りは武家屋敷とか、本物の豪邸とかが並んでいる中のこれだからなー。
そういえば、俺は普通が何かしらないな。
「……いや、あれは流石11家のと言いたいんだが」
「颯も!?」
颯も、実家を凝視して呆然とつぶやいていた。
表情を中々表に出さない颯が、ぽかーんと口を開けているということは嘘ではなさそうだ。
しかし、しかしだなぁ。
颯の実家は完全な武家屋敷で、2500坪あると聞いたことがある。
ソレに比べたら少なくとも、【普通】だと思うんだが気のせいか?
「いや、周りがアレだから普通だ」
「……ランクが少々下がったとはいえ、【八顕】から【三劔】ですもんね」
古都音が何か、肩の力を抜いていた。
俺はそんなにも変な事を言っただろうか。
彼女が気になったのは別の場所。指差した先は……。
「確かに家はそうですけれど、庭とあの建物は何ですか?」
「えっ、【顕現】訓練用の稽古場だけれど……」
父さん……冷躯さんの為にあるらしいそれは、俺も5年間使ってきた場所だ。神牙研究所の協力もあり、最新鋭の対顕現加工がなされている。
それでも、父さんが本気を出して壁や天井をぶち破り、修理してもらったというのは何度もあったが……。
ないの? と訊けば、古都音と颯はお互いに顔を見合わせてはぁと溜息をついた。
なに意気投合してるんだ。俺が変みたいじゃないか。
「普通の家庭に無いですよ。少なくとも終夜家にはないです」
「終夜家は代わりにプールがあるけどなぁ」
終夜家には無いだろうけれど、善機寺家にはあるのだろう。
道場やってるしな……。
玄関先で車を止めてもらい、礼を言って玄関から出てきた女性を見やる。
ただいま、と言いかけて少々動揺。
銀色の髪の毛、人形のような美しい容姿……。
カナンさんにとても良く似ているけれど、どこか違和感があった。
「おかえりなさい」
素知らぬ顔で、その女性はにこやかに挨拶をする。
古都音は「どうしたのです?」と全く気づいていないようだが、颯が俺の様子を見て何かを察したようだ。
「……俺の母親だ」
「久しぶりね、颯」
んーあー。
俺は何も言い返せなくなって、さてどうしようかと古都音の方を振り返る。
ここ、善機寺家だっけか。いや違う、きちんと表札は「八龍」である。
ということは、もしかして。
もしかしてだな。
「……どうしたのです? 狐につままれたような顔をして」
「ちょっといいのか悪いのかわからないが、予感がしてな」
その答え合わせはすぐに来た。
玄関のほうからバタバタと音がしたと思えば、次こそカナンさんがやってきたのだ。
そして颯が「母親」と称する自身によく似た女性の肩を数回叩き、頬をふくらませる。
「おねーちゃん、手伝いしてよ」
「……ほらな」
俺の言葉に、古都音は納得したような顔で頷いた。
目の前に居る二人の女性の容姿は瓜二つだ。
どちらも若々しく、未だ20代後半の風格。
違いと言えば、カナンさんの右目の下に泣きぼくろがあり少々タレ目であることくらいか。
本当に瓜二つ、という比喩表現が似合っている。
ただ、颯が何故すぐに分かったかが謎。
「母さん、秘密ってこれのこと?」
「うん。善機寺家と八龍家の関係がこれだから、ゼクスと颯君は従兄弟ということになるわね」
颯の母親は「善機寺奏魅よ、よろしくね」と自己紹介して来た。
……俺の叔母に当たるんだろうけれど、おばさんと呼ぶには少々ためらわれるほど美しいしな……。
わー、颯と従兄弟かー。
俺は養子だけれど、養子縁組すると養親と血続きという扱いになるんだっけか。
本当に従兄弟じゃねえか。
……俺はふとした疑問を、颯に向かって吐き出すことにした。
「俺は颯の母親知らなかったけれど、颯は分かってて言わなかったのか?」
「……いや、似ているなぁとは感じていたが、まさか近くで並べられると見分けがほぼつかないとは思わなかった」
……颯は鈍感、と。心のなかでメモしておこう。
いつに成るかわからないけれど、この事態は大変なことを引き起こしそうだから。
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