第102話 「夏休み開始」
第5章始動。
燦然と太陽が輝き、熱された気温は強く自身を攻撃する。
全てが気だるくなると同時に、またやる気を起こさせる気分が入り交じる、そんな7月の中旬。
夏休み開始当日――。
というのが、俺の今の状況だ。
今日から学園を離れるため、準備をしている最中である。
隣には颯がいて、手ぶらで帰省するつもりなのか「もう終わった」なんてほざいているんだけれど。
俺もそんなにいっぱい持って帰るわけじゃないさ。
「ところで……、秘密って本当に何なんだろうな」
「本当は生き別れた本当の兄弟とか?」
もう、秘密を教えると言われて1週間。流石に気になりすぎて、さてどうしようかというところ。
颯は適当にそんなことを言うものだから、少々真顔になって問いかけてみる。
「それ、本気で言ってる?」
「ないです」
変に敬語になった彼に俺は脱力する。
顔に大傷が残った少年は、冗談をいう時すら真顔なんだからどうしようもない。
いやー、普通に笑ってくれないのかね。普通に笑わないのは俺もそうだけれど。
「だよな……」
「わからないから秘密なのであって、分かってたら秘密でないだろう」
「ごもっともで」
スーツケースの準備を終わらせ、【始焉】を腰の右側に。
【髭切鬼丸】を腰の左に。
ちなみに【髭切鬼丸】は、なんか知らないけれどくっついてるんだよな、これ。
オニマルが何かやらかしているんだろうけれど。これなら有事の時も安心だと言いたいのか。
自分の命に危険を感じないかぎり、俺は【始焉】を使うがな。
「帯刀してたら通報されそうだ」
「実家に帰ったら、時間を見つけて役所に行くと良い。認可されれば協会から胸章が贈与される」
調べたのか、解決方法を教えてくれる颯。
すげーと思いながら彼の方を見たら、携帯端末で絶賛検索中だった。
確かに、調べてはくれているんだけれど。ちょっと落胆したというか。
そうこうしているうちに、古都音がやってきた。
がらがらと音がして、開けっ放しのドアの方から姿を現した彼女は、準備がほぼほぼ終わっている俺達の様子を確認して、それでももう一度質問をする。
「準備、終わりましたか?」
「はい、終夜先輩」
「善機寺さんは準備ないでしょう?」
最初に返事をしたのは颯である。そりゃ、手ぶらなんだからそうだよな。
妙に納得しつつ、俺はいやいやと首を振った。
準備がそもそも始まっていないのに、終わったとはどういうことだ。
……それはさておき、俺も返事をする。
「ああ、俺も終わったよ」
「寮の前に、白い車があるので名前を伝えて下さい。すぐ私も行きますから」
詳しくは説明されていないが、古都音の話を聞くに下に行けばすぐ分かるのだろう。俺は颯と無言で頷き合い、戸締まりをする。
夏休み中に、窓から窓へ侵入してくる人は居ないだろうが、窓もきちんと鍵をかけた。
冷撫も帰省、するのかな?
寮の入口前に、止まっている車は少ない。
殆どの場合、学園をでてすぐにあるモノレール駅かスクールシップを使って帰省するようだ。
ところでスクールバスなら分かるけれど、スクールシップってなんだい?
流石に【顕現】して翼で飛んで帰ります、という人間は居ないようだ。
それをやってみたいという気持ちもあるけれど。今の俺では出来ないな。
またアガミから【顕現】のコツを教えてもらうとしようか。
「やーゼクス君。久し振りだね」
白い車……を、探す前に目的の人物と出会った気がした。
終夜皇氏である。
彼は太陽に対して眩しそうに目を細めながら、俺達に声をかけた。
……当主様、CEO様が直接出迎えに来ても良いんですかい?
八顕学園の中では安全、といえばそうなのだけれど。
そもそも外でも、神牙家や八龍家に守られている存在である終夜家が攻撃をうけることはかなり少ない。
少なくとも、この10年ではないだろう。
スメラギ氏に挨拶を颯とすると、彼は颯に目を向けた。
「善機寺颯君も、はじめまして」
「……はじめまして」
一礼する颯。その行為に、スメラギ氏は「かしこまらなくとも」と微笑む。
そして颯を車……白いミニバンに乗せ、俺に振り返る。
視線の先は【始焉】だ。付属品で腰に括りつけているが、それで間違っていないらしい。
「【始焉】を気に入ってくれているようで何よりだよ」
「【顕装】って扱いやすいものなんですね、こうやって触ったのは初めてですけれど」
扱いやすいのは、特別製だからだねとスメラギ氏。どうも、俺が分かっているよりも、古都音が説明したよりももっと多くの工夫がされているんだろう。
戦闘時に、どうしても扱いが乱暴になってしまう……というか、俺がこれを武器にして殴りかかるのが行けないんだろうけれど。
それでも、傷一つとしてついていないのだ。
「君が古都音を決闘の戦利品に出したのも、意味があるからだと思っている」
「いえ、ただ負けるつもりがないからです。愛情を教えてくれた古都音を、俺は手放すつもりが無いですし」
俺は、スメラギ氏へ言葉を返してまっすぐに目を見つめる。
自分が本気だと伝えるためだ。いくら言葉を並べ立てても、結局見られるのは態度である。
大分、自分の中にも「誰かを」「守りたい」という気持ちらしきものは出てきた。
だからこそ、それを証明するために。この夏、そして9月の決闘に臨む。
「そうか、なら私も君に愛情を与えよう。……【顕装】に形を変えて、だが」
「ありがとうございます」
いやー、俺の回りにいる人ってやっぱり温かいなぁ。
最初から刀眞家ではなく、八龍家に生まれていたらよかったかもしれないと節に思うが、それは流石に無理か。
と、まあ古都音もやってきた。
そして俺の隣にいる人物、スメラギ氏を見て声を上げる。
「お待たせしましたー。ってお父様!?」
「きちゃった☆」
来ちゃった、じゃねーよと思ったが声には出さないでおく。
これはあれか。運転手を向かわせると言って自分で来たパターンなのか。
俺は「はっはっは」と笑い声を上げるスメラギ氏と、呆れてものも言えなくなった古都音を交互に見て、はぁと溜息をつく。
そのため息は安堵の意味もあり……、まあ、こういう生活に憧れていたのだ。
次回更新は今日です。これこそ本当の意味での息抜き回にする予定。
ゼクス達の、平和なライフをお楽しみください!




