第001話 「復讐を誓ったあの日のこと 上」
読み方は「シコウのケンゲンシャ」です。
――考えてみれば、絶望に叩き落とされた時点で。 大きく性格がゆがんで、しまっていたのかもしれない。
俺はそう考えて。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ男女達がこちらに目もくれず通り過ぎていく、繁華街の隅に座って真っ黒な空を、みあげていた。
「お前はもう、私の子ではない。即刻出ていけ」
父さんの顔は酷く無表情で、冷め切った目で僕を見つめている。
「聞こえなかったのか? 出て行け、と言っている」
僕は何を言われているのか、聞こえてはいたけれど理解が出来なかった。
出て行く。どこに? まさか家から?
母さんのほうを見るが、あちらはこちらを見ようともしない。
「【顕現者】の資格すらない輩に、刀眞の名前を名乗ることなど。――許さない」
小じわの多い父さんの顔を、その冷たい視線を感じて、僕はどうすることも出来ない。
何が間違っていたんだろう、と。
思い返す。
「出て行かないというのなら、私達が出ていこう。おいで、遼」
「はい、お父様」
兄さんは、こちらを軽蔑しきった顔で見つめていた。
宝石のようにつややかな黒い髪の毛、黒い目。
ほんの昨日まで、僕を可愛がってくれた顔は、もうない。
「無能の身体で、刀眞家にいるな」
次の瞬間、僕は青く光った父親の腕の力によって、窓ガラスを突き破りつつ外へと投げ飛ばされた。
何が起こったか、理解したのは空を舞っている時。
今の今まで住んでいた家が物理的に離れていき、僕は地面を転がる。
「……あ……あ」
声が上手く出せない。
からだの、そこらじゅうが痛みを訴えて、叫んで。
同時に、心も叫んでいる。
「むのう、か」
確かにそうかも、と。
自分で考えてしまったのが、どうしても悔しかった。
と、いうわけで今、僕はここにいる。
時間がたてば許してくれるんじゃないかな、と思って物陰に隠れていたら、本当に大荷物で出て行く父さん母さん、兄さんが見えたし……。
「……はぁ」
自然と、ため息が溢れる。
「【顕現者】、か」
それは、特別な資格……というわけでもない。
僕の周りの人はみんな、当たり前のように合格してた試験だったし……。
でも、僕には素質がないって、先生が言ってたから。
昔は「マホウ使い」、とか「セイレイ使い」、とか。
そんな名前で呼ばれていたんだよって、小さいころ絵本で読んだお話が現実に、自分でもできるものなんだよ、と。父さんが言っていた。
そんなものが、今はこうなるなんて。
誰も考えつかなかったんじゃないかな。
僕だって、僕だって、……僕だって。
……考えるのはやめた。それよりも、今からどう生きていくかを考えないと。
死にたくは、ないかなぁ。
その時、右のほうから凄い音がした。
「へ?」
続いて光。眩しい、って感じる前には光はおさまっていて、目の前には剣を持った男二人が、向かい合っている。
僕は間抜けな声をだして、身体を動かそうとする。
でも、動かなかった。お腹が空いて力が出ないのもあるけれど、それが何か、わかってるから。
「これが」
これが、【顕現者】。
やっぱり英語にすると、どこかのヒーローものみたい。
でも、それがこの世界の普通。
いつでもどこでも、こういうことはあること。
アメリカなど外国では銃を持つことを許可されてるけれど、やっぱり日本よりも事件はよくおこる。
それと一緒で、【顕現】っていう力を持ってる人間は、どうしても酔っちゃうんだ。
自分の持ってる力に。
僕は冷めた目で、それを見ていたかった。
正直怖くて、動けなかったのもあるけれど。
どうせ、僕とは関係ないな、って思ってたんだ。
僕はその資格がないから。怖い顔をした、名前も知らないお兄さんたちが叫びながら戦っている場所と、僕の座っている階段。
本当はかなり近いんだけれど、どうも。
壁1枚が、間にあるような気がして。
テレビで生放送を見ているような感覚だったんだ。
ノベルアップ+様にて、リメイク版を更新しております。
タイトルはこのまま調べていただければ、出ます。
メインはそちらに移しましたため、こちらの更新は気が向けば……になります。
ご了承下さいませ。