Kapitel. 1
深堀亮介は自宅の郵便受けに入っていた一通の手紙を手に取った。明らかに女の子の選びそうな封筒だが、ラブレターだとしても自宅は伏せているはずだけど、と首を傾げる。
深堀亮介様と書かれた見覚えのあるあたたかい文字。亮介は、差し出し主を確認すると息を呑んだ。昨日会ったときの泣きそうな彼女の表情が脳裏に浮かび、一層彼を不安にさせる。
震えそうな両手で封筒から数枚の便箋を取り出して、ゆっくり息を吐いてから彼女の小さい文字を追った。
仕事お疲れ様です。
亮介に手紙を書くのは初めてだよね。
突然で驚かせたと思う。ごめんね。
亮介と会った高校一年の春、今でも鮮明に覚えています。
突然「付き合ってください」なんて、思い出すたび笑っちゃうよ。
芸能に疎い私には亮介のことがわからなくて、ただただ混乱しました。
あ、でも亮介のことを知ってたら余計混乱してたかもね(´・∀・)
亮介と一緒にいた日々はとても充実していて、本当に楽しかったです。
思い出話を始めると便箋が何枚あっても足りないから諦めるけど、どれもいい思い出です。
付き合い始めてから、亮介がとても優しい人なんだって知りました。
少し天然な部分もあるけれど、いつも私のことを考えてくれて嬉しかったよ。
普段あまり自分の感情を表に出さないのに、突然素直に気持ちを伝えてくれたりで、私も振り回されてたなって思う。。。
大学生になって、学校が離れて、しかもモデルの仕事も忙しくなって、会う機会も格段に減ったよね。
毎日メールもしてくれるし、時間があるときは電話もしてくれる。
亮介の気持ちはわかるし嬉しいけど、やっぱり少し寂しかったです。
ごめんね。こんなんじゃだめだよね。
亮介と会えない日が続いて、沢山考えるようになりました。
高校生のときは学校と仕事を両立させながら、私が寂しくないようにっていろいろ考えてくれてたんだなって実感した。
私のためにいろんなことも我慢させてしまったよね。
そんな亮介のことを嫌いになんてなれないし、むしろ私の中で涼介が大きくなりすぎちゃって困ってます。
でもね、嫌なことを考えちゃうことが増えちゃったんだ。
テレビに出てる亮介を見て、他の人を見ないでって思ったり、
連絡がないと今は何してるのかなって考えるのと同時に、女と一緒にいるのかなとか思っちゃったり、
亮介がたくさん愛してくれているのはわかっているつもりだけど、それでも一人でいると不安になったり。
私はこれからの亮介の人生の中で足枷になってしまうかもしれないって、思ってしまうことも増えました。
そんなこと言ったら亮介は怒るだろうなって思ったけど、それでもごめんなさい。この気持ちは拭えない。
私はテレビの中の深堀亮介のことはあまり知らなくて、テレビや雑誌を見るたびに、この人は誰だろうって思ったりしてました。
深堀亮介は人気モデルで、最近はバラエティやドラマにも出演するようになって、これからもっとたくさんのことを経験していくんだと思います。
そんな彼の中に私はいるのかなって、考えるだけで苦しくなるけど、そんな気持ちが離れません。
そうやってだんだん自分が嫌な人になっていくのがわかって、一層自分が嫌になって、亮介と会うたびに罪悪感でいっぱいになります。
でも亮介には夢を叶えてほしいって心から祈ってる。これは本当だよ。
亮介の夢の邪魔だけはしなくないです。
だからね、別れた方がいいんじゃないかなって、思います。
このままだと、忙しくなる亮介に八つ当たりしてしまいそうです。
わがままもたくさん言って、困らせてしまいそうです。
コンサートやテレビで亮介に声援を送る女の子たちに嫉妬してしまいます。
私は亮介の重荷になりたくない。
大好きだから、別れてほしいです。
私はこれからも深堀亮介の一人のファンとして、密かに応援していきたいと思います。
今までありがとう。これからもがんばってね。
息が詰まりそうだった。手紙を読んでいる間、呼吸をしていたかさえ定かではない。
亮介なりに、彼女の苦しみは理解しているつもりだった。
そのため隠し事はせず、時間さえあれば連絡を取るようにしてきた。
しかし、ありがとうと照れながら言う彼女が、まさかここまで思いつめていたとは考えてもいなかった。
「・・・最低だ」
亮介は小さく呟いて、手紙を握りしめて走り出した。