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雨の降らせ人

 大きな噴水がある煉瓦式の広場。

そこにひどく場違いなロングドレスの女性が一人。噴水の淵に腰をかけてうなだれている。

ぽろぽろと足元の煉瓦に水滴が落ちる。まるで雨が降るように。声も出さずに女性は雨を降らせる。

そのまま雫を振らせ続けたら水たまりが出来そうになった時だ。


不意に女性の上に影が出来た。


女性が顔を上げるとそこには奇妙な姿をした子供いた。まるで劇場に住む怪人のような仮面をつけ、中世貴族のような格好をしている。まず驚くのはその子供は色を持たない、無彩色なのだ。

子供は驚いたように口をあんぐりと開ける女性に構わず言葉を降らせる。


「ボンソワー、マドモワゼル。こんなに天気が良い日に何故泣いているのですか?」


 子供はその姿に見合わないひどく落ち着いた声色で女性に話す。


「…泣いていないわ。雨が降っているのよ」


 苦しい言い訳だが、子供は納得したように一つ頷いた。そしてつらつらと話しだす。


「なるほど、では貴女のココロに雨が降っているのですね。しかし、雨ははけ口がないといずれ洪水が起きてしまいますよ」


 何となくだが子供の伝えたいことを察した女性は、困ったように俯く。


「泣けるわけないじゃない。大人になったのに、人前で泣くなんて」


 そう言って俯く女性に子供は暫し考えるように顎に手を添える。そして空と女性を交互に見てパンと手を叩く。いきなりの行動に女性は驚いて顔を上げる。当の子供はにこりと笑いながら空を指差す。


「だったら雨を降らせましょう。そうしたらマダモワゼルは泣けますでしょう?」


「…待って。どうやって雨を降らせるのよ。こんなに快晴なのに」


「できますよ。だって私のお仕事ですもの」


 何か言い募ろうとする女性を制して子供は女性から一歩離れる。すぅ…と息を吸いこんで、メロディーを口ずさむ。


 幼い声に合わないセレナーデを歌いながら空を見上げる。すると女性の膝にぽつりと雫が落ちた。まさかと思い、空を見上げると顔に降り注ぐ雨粒。

落ちてくる雨粒は不思議と暖かく、冷たく凍っていた心を溶かしていくのが変わる。


 そのまま呆然と雨に打たれていると、いつの間にか子供の歌声が止んでいるのに気づく。子供に視線を向けると、目が合ってにこりと笑いかけられる。そして、そのまま近づいて子供の指が目元に這う。


「美しい雫ですね。雨とは違う、儚い美しさだ」


 その言葉に女性は自分が涙を流していることに気付く。気づいてしまえば涙は止まらず、女性は子供のように大声をあげて泣く。子供はただじっと空を見上げ女性が泣きやむまで待っている。




 しばらくして女性は落ち着いたのか、顔を上げる。そして子供を視界に捉える。そして、驚いて目を見開く。女性の視線の先には鮮やかな青色に染まった、子供は佇んでいた。驚愕の表情に気付いた子供は濃紺のマントを摘まんで微笑む。


「仕事をしたら報酬が貰える…つまりはそういう事なのですよ」


 水色の髪を揺らし子供は言う。ブルーグレーの隻眼をパチンと閉じるがウィンクのつもりだろうか。ウィンクに見えないそれに女性は笑う。

いつのまにか天気とは裏腹に心は晴れ渡る。


「嗚呼、そのままでは風邪を引いてしまいますね」


 そう言って子供は女性にマントを被せる。視界が遮られ慌ててマントを退けると、広場内に子供はどこにもいなかった。まるで最初から存在しないように消えた子供。女性は白昼夢ではないのかと、一瞬疑う。しかし、被せられた濃紺のマントが何よりの証拠。


 マントにくるまっていたら広場に1人の背広姿の男性がやってきた。そして、女性を見て慌てたように駆け寄る。


「…ふふ。彼に伝えなきゃね。雨の降らせ人に逢ったって」




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