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moDokashi  作者: 季川 貴唯
2/2

2. あと、10センチ


* 「最近ね、ユキちゃんを見るとドキドキするの。」


 男女別で行う体育の授業中、雅也に問い掛ける鈴。

 無意識なのだろうが爆弾発言の多い彼は、いつになく真剣な顔をしている。


 「ユキを見ると、なの?」


 「う…うん。」


 「ユキだけ?」


 ふぇっ、と小さく言うと赤く染まる頬。

  分かりやすい反応だ。 誰もが言いたくなってしまう。


 「ユキちゃんだけなの。笑ったりしてる所を見ると、どくんってするの…」


 雅也に対して必死に伝えてくる鈴。

 溢れるほどの愛がすぐそこにあるのに。

 手を伸ばさない。伸ばせない―――。


* 体育も終わり、下校時間。

 次々に生徒が帰っていく中、鈴とユキが二人で話していた。

 すると、どこかへ向かって歩いて行くユキと、こちらに向かってくる鈴。


 「まさ、ユキちゃん、仕事あるんだって。手伝わない…?」


 「ん、ああ。いいよ?」


 そんな会話の後、教室に入ってきたユキが抱えていたのはたくさんのプリント。

 話を聞くと、会議用のプリントを冊子型にしてほしい、と先生から頼まれて断れなかった。 とのことだ。


 「ごめんね、手伝ってもらって…。」


 そう申し訳なさそうに言うユキ。 その姿は耳の垂れたうさぎのようになっている。


 「ユキちゃんのためだもんね!」


 ぴかぴかとした笑顔を見せて張りきる鈴は、せっせとホッチキスを使い、冊子を作っていった。

 その後も、三人で仲良く話しながら作業をしていくと、スムーズ終わっていった。

 最後の一冊を作るとき、その瞬間が来た。


 「あ…いたっ…」


 ぷくり、と血が出る指先。

 慌てていたせいか、ホッチキスの針で指を切ってしまったのは鈴だった。

 そんな鈴が一人でわたわたしていると、ユキが行動に出た。


 「―――!!」


 ぱくり、と鈴の指をくわえるユキ。 少しの血を綺麗に舐めとった。

 突然のことで理解できていない鈴は、キョトンとした顔をしている。


 「ん、血はとまったね」


 ちょっと待ってて、と声を残したユキは、自分のリュックの中からポーチを出してきた。

 そこから、可愛らしい水玉の絆創膏を出した。


 「鈴くん、指、だして?」


 言われるがままに動く鈴。

 パニック寸前であることは表情に出ている。


 「はい。もうへいきだよ」


 ふに、と笑いかけるユキと、固まる鈴との距離は、わずか十センチばかし。

 鈴くん?と呼び掛けるユキに対して、小さな声で呟く。


 「あり、がとお」


 

 ―――あと十センチ。

 

 十センチの距離がなくなる日は、いつになるのだろうか。

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