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大体の感覚で、今は夜中であろう事は分かる。

夜なのに微妙に明るいのは、火事のせいか?

災いではあるが、お陰で人を見つける事も出来れば、道なき道を行く事も出来る。


福島は無事か?

岩手は?

北海道は…

どのプレートが動き、こうなったか分からん。

情報が欲しい。


原発は?

皆を早く避難させないと。

急がないといけない。

アイツらが待ってます。

放射能にまみれたりなんかした日には、アイツらが後でどんな目に遭うか。


この国は政治はクソだが、自衛隊や消防隊はどこに出しても誇りを持てる優秀な人材ばかりだからな。

暴力装置?

お前が去ね。どうせ隠れてるやろ、仙谷。


あの時持てる全力で移動したのは、自衛隊・オレンヂなどに遭遇しないかと云う希望と、あの集団と出会わないかと云う希望があったから。

必ず○○○は来ているはず。


移動の途中、家屋の屋上にいる男を見つけた。

「おーい!」と話しかけられた時は、腰が砕けそうになった。

泣きそうにもなったが、それらは我慢する。

周りを見、梯子になる物はないかと探したが、屋根に届きそうな長物はない。

「腹は?腹は減ってないか?」と聞くと「それはまだ平気です」と返ってきた。

「どこも痛くないか?」

「はい」

生きていてくれて有難うと言おうかと思ったが、これも我慢する。

現状にそぐわない。

「もうすぐ助けが来るからじっとしてろ!」

そう言って胸元のお菓子を投げ渡そうかと手が届いたが、渡すのを止めた。

まだ危ない状況の奴がいるかもしれない。

町が明るい。火事が近いのか?

ここには救援が来れないのか?

消火に当たっている奴らはここには来ないな。

迷った挙句、

「人呼んで来るから!待ってろよ!」

とだけ伝えた。

男は「はい!」と返事をして頷いた。


お菓子をケチったわけではない。

残っているもう一袋は俺の物ではない事も知っている。

他の誰かの物。

探そう。

急がないとな。

俺に出来る事は限られているから。


そういえば琢磨が、

「国民を差し置いて政治家だけがカスなんて事はありえん!国民と政治家はある程度等しい」

って言っていたな。

反省した。

誰かのせいにはするまい。

頼むぜ、管。



好き嫌いが一つもない。

一度も大きな病気をした事がない親孝行者。

交通ルールは破ったことはないし、人を傷つけた事もない。

イジメをした事もなければイジメられた事もなく、それらを見て見ぬふりは出来ない。

そんな奴がいたかもな。


勉強は中の中、中肉中背でスポーツは普通に好き。

全部普通だが、何故か周りの人達は自分に優しくしてくれる。

そんな憧れの存在もいただろうな。


俺は今、出来る事をしないと、生きた自分が勿体ない。

俺は今、体調が頗る良い。主観をフルに活かしている証拠だ。



白々と明ける夕べはやはり嘘ではなく、現実を紫色に染めだした。

何人かの人に出会った。

怪我をして動けない者。

眠っている者もいた。

パニックを起こしている者も。


助けはまだ来ないし、現実も変わらない。

そして俺は、その大いなる力にはなれない。

だから俺は穂積の名を名乗った。

奴らはやっぱりここにも来ていた。

○○○には穂積の名前が効くのを知っているから、またアイツの力を借りた。

思考をフルになら、人脈もフルに使うべきだ。

アイツが生きていたならどうしただろう。

俺とは確実に違うだろうな。

俺にはコレしか思い浮かばない。


俺は今、安心な場所にいる。

早く服を返しに行かないと、アイツらが凍えてしまう。


会った人間の中に一人変な奴がいた。

ソイツはイギリス人で妙に明るい。

ロベルトと名乗るソイツは、ずっと俺の後を着いてくる。

今は人に知られないように、誤解を生まないように過ごさなければならないのに…

ロベルトは俺から離れない。

勘弁してもらいたい。



奴らに、普段の罪滅ぼしの意識はない。

ただ得体の知れない者達に荒らされる日本を、黙って見ている事は出来ない。

理由はこれだけと言っても良い。

俺も神戸で参加した。

「逆に勇気づけられた」

そんな、誰の為にあるのか?とそれまで思っていた言葉を、あの時も体感したな。


片足の俺ではあまり役に立たない。

俺は、深く眠る者達の見張りをする事になる。

琢磨がいればな…そんな事を思ったな。

まだアイツらには連絡がつかない。


自衛隊やオレンヂの手が足りない部分を補うのが、俺達がやらなければならない事。

勿論専門家ではない為、余計な事は出来ない。

人が埋まっている場所を見つけたら、そこに用意した印をつける。

明るいうちはそんな作業に明け暮れた。

今回は○党が○○○と云う事で、今までより仕事がしづらいとの事だ。

火事場泥棒も○○○も一緒と云う事か。

それくらいの覚悟はある。

借りた服も返しに行った。

三途の川を渡る小銭を、運賃を、少しばかり添えるのが精一杯だった。

自分の無力さに打ちのめされている暇にも、やる事はあった。


ロベルト。

帰る場所があるんなら帰れと言っても聞きやしない。

原発事故の事も話したが、聞かない。

国では母親が待っているらしい。

親不幸をするなと言う俺に、

「なら直樹も一緒だろ?直樹だって亡くなられた親御さんを無視しているはずだ!それに日本はこれから桜の季節だ。それを見ずに帰る外人がいたら、僕が説教してやる!」

アイツはそう言った。

俺といると、お前に見せたくない日本を見せる事になる。そう言ったら、

「平気さ。存分に見せてくれ。日本には僕の知る悪を補い、隠す美しさがある!日本は人も景色も、僕にとって尊敬の範囲を越えた存在だ!」

そう答えた。


イギリス人。日本語がベラベラ。

十年間日本に住み、一旦イギリスに帰り、また日本に来た所で被災したらしい。

……俺は親日的な外国人に弱い。


「俺の命令に従えるか!」

「OKだ! 」

「命令やぞ!」

「ああ!OKだ!」

……ロベルトはとても良い奴だ。



琢磨から聞いた原発について。

ようやく電話が繋がり、アイツにボロカス言われたが、それは後回しだ。

琢磨から教わった原発の復習をしよう。

トラックで明日、放水を始めるらしい。

冷やすのに何年かかるのかと言っていた。

チリチリに熱し続けられている中華鍋に、霧吹きで二、三回シュッシュッと水をかけるようなものらしい。

実際は放射能放出の鎮静は不可能なのに、報道しない事実に吠えていたな。

今は風の影響で東北以外には飛散していないが、東北の風が明日何処で吹くかは分からない。

言う通りだ。

さらに報道は、1号機・2号機の燃料棒の損傷率を言わなくなった。

すでにメルトダウンして、底抜けしているのかもしれない。

あくまで琢磨の想定で、これは最悪の事態らしいが。

ただ大気中に舞う量から、チェルノブイリとは違う。

日本はあそこまでにはならないとも言っていた。

放射線は光のようなもの。原発が見える所には行くな。

放射性のチリは帯状、虹のように地に降りている。

早くその土を廃棄しないといけない。

それこそ何十年単位で住めない町になってしまう。

レントゲンと比較対照して、安心感を擦り込もうとするのはやめるべき事。

政府の連中らは○○に逃げる用意をしていそうだとの事。


○○に逃げるかどうかは置いておいてだ。

管……やはりやってくれた。

ピースボートについても、アイツはまるで俺に罪があるかのように俺に吠える。

確かに支援物資は被災地に届いていない。


随分と元気が無かった。

佳澄ちゃんも同様だとも言っていた。

東北の人達に「頼むから生きてくれ」と伝えるように言われた。

伝えよう。

アイツは色々と勉強しとるな。俺もしないとな。

そしてアイツら二人もイイヤツだ。



友とは一体何なんだろうな。

同僚は友か?

元弟子は?さらにその元弟子の女は?


電話が繋がった途端、五人に土下座を迫られるほどの勢いで罵倒され、叱咤された。

五人も心配させるとは、どうやら俺も捨てたものではないようだ。

逆にアイツら五人の心配をしていたつもりだったが…

遺書については破棄しよう。

……また佳澄ちゃんに、このメモを渡さなければならない事を思い出した。

破棄すると怒られるのか?

取り合えず、この考えはキープだな。


琢磨は「今からそっちに行く」と言った。

意味深気に「俺もそっちに用事がある」と言った。

一体何の用事が。

本気で止めないと、アイツはどんな手を使ってもこっちに来る。

ボランティアって柄か!

いや…、柄かもな、アイツは。

夜の巡回を手伝ってもらえれば助かるが、こっちは被曝の恐れがある。

まあ、もちろん百も承知か。

馬鹿馬鹿しいと溜め息混じりの返事をした俺に、

「アンタの命は今ある命や!亡くなった人らの命と天秤にかけるな!」

と言われてしまった。

どうやら、俺が行くのを拒むならお前が帰って来い、と云う意味らしい。

分かりにくいな、アイツの言葉は。

オマケに、佳澄ちゃんも一緒に行くと言っているらしい。

無謀に重きを置くつもりはない。

どう考えても却下だ。

俺はアイツらより十は多く生きているからな。

要するにだ、十年早えんだよ。俺に追い付くにはな。

しかし、アイツの言う通りかもな。

俺がココにいても、地元の人の役に立てるかどうか。

勿論救援物資に手を伸ばすつもりはないが、俺は余所者だからな。

いざとなれば逃げ出す、そんな自由の身だ。

この地で生まれ育った人達は、他に行く所の無い者もいる。

それに比べ、俺はとても贅沢だ。故郷を持たない。

いつ、何処に行っても良いと云う事。

見解の誤認は俺の特技で、いつもいつも自分の都合の良いように、俺の中で写生する。

逃げるつもりはない。


今回も生きた。

五人の罵倒でそう実感した。贅沢な話だ。

逃げ出すつもりもない。

たまたま拾った自分の命、と云う自身の名目は外せないんだな。


俺の目の前で流されて行ってしまったガキ。

瓦礫の下敷きになって、二度と動かない女。

何かを大事そうに抱えたまま、横たわっていた男。

沢山の命を見た。

俺は意地でも、奴らと代わってやれていれば!なぞとは思わない。

俺があの時代わりに!なぞと、間違っても考えはしない。

だからこそ、この命は出来る限り使わせてもらう。

全うするのが健全だと考える。

何を言いたいのか分からなくなったな。

まあ何にせよ、東北の人らの邪魔はしねえ。


しかし、ブチ切れた琢磨は相も変わらず今だに怖いな…。

普段はよく喋る、面白い兄ちゃんなのにな…。

今は俺にとって、この世に存在する何よりも怖いものになったな…。

いや!だが俺は負けない。

まだ帰れない。

田宮とあの女も探さなければならない。


佳澄ちゃんに、一日ニ回の連絡を約束させられたな。

美幸にも同じ約束をさせられた。

女は男の二の腕を引っ掴み、頑固に塗り固めた決心を鈍らせる。

その約束もなるべく守ろう。きっと守れる。

俺とロベルトは現在、○○○に匿われて健全に存在している。

心配無用だ。


しかし救援物資が届かない。遅すぎるな。

手段はいくらでもあるだろうに。

○○○が持ち込んだ食料も量が少なく、被災者達に分ける事も出来ない。

情報は命だ。

元気な者は出来うる限りの物をかき集めなければならない。






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