9. 勝利の味
淡路くんが土下座をし、逃げるように去っていった。
その背中を見送った瞬間、私はふっと息を吐いて、その場にへたり込みそうになった。
怖かった。足がガクガク震えている。
でも、勝った。
栗原くんが、コンポストに石灰を撒き、土を混ぜ返す。
彼がスコップを振るうたびに、あの嫌な悪臭が消え、懐かしい土の匂いが戻ってくる。
まるで魔法だ。
でも私は知っている。これは魔法なんかじゃない。彼が毎日積み重ねてきた、地道な努力の結果だ。
「……終わったぞ」
彼が汗を拭う。私は慌てて自分のタオルを差し出した。
受け取ってくれた彼の手は、泥だらけだったけれど、とても温かそうだった。
「お疲れ様、栗原くん」
「お前こそ。……まさか、あんな脅し文句が言えるとはな」
栗原くんが呆れたように、でも優しく言ってくれた。
「ふふ。誰かさんの影響かもね」
私が言うと、彼は「またそれか」と苦笑した。
二人で顔を見合わせて、笑い合う。
こんなに自然に笑えたのは、いつぶりだろう。
夕暮れの裏庭。
オレンジ色の光の中で、私は確信した。
もう、私は一人じゃない。
このイガ栗くんとなら、どんな変態が来ても、どんな権力が相手でも戦える。
ここは私たちの、最強の聖域なんだから。




