8. 聖女の反撃
淡路くんが、部下を引き連れて裏庭にやってきた。
彼は頭を下げた。「活動を再開してくれ」と。
でも、私には分かった。彼はまだ反省していない。ただ、今のパニックを鎮めたいだけ。喉元過ぎれば、また栗原くんを「陰キャ」と見下し、私を「保存」しようとするだろう。
栗原くんが「断る」と言う。
淡路くんが逆ギレしそうになる。
(……私がやらなきゃ)
今まで、私は栗原くんに守られてばかりだった。
彼の背中に隠れて、震えているだけの「泣き虫な百合根」。
でも、それじゃダメだ。
栗原くんは「植物」という武器で戦った。なら、私には何がある?
(私には……この『皮(仮面)』がある)
みんなが勝手に崇め、私を苦しめてきた「聖女」という虚像。
でも、使いようによっては、これほど強力な武器はない。
私は深呼吸をして、心のスイッチを切り替えた。
何重にも重ねた仮面の一番外側。冷たくて美しい、鉄壁の笑顔を貼り付ける。
私は一歩、前に出た。
栗原くんを背中に庇うように。
「淡路委員長」
声をかけると、淡路くんが怯んだのが分かった。
今の私は、ただの女子生徒じゃない。彼が崇拝し、畏怖する「白川ゆりね」だ。
「栗原くんにお願いするなら、誠意を見せていただけますか?」
にっこりと笑う。
それだけで、淡路くんの後ろにいる生徒会の人たちが息を呑むのが分かった。
「もし、これ以上彼を愚弄するなら……私が全校生徒に『真実』を話します」
淡路くんの顔色が紙のように白くなる。
私が「淡路くんにストーカーされた」と一言でも公言すれば、彼の社会的地位は終わる。彼はそれを誰よりも理解しているはずだ。
「彼に土下座して、二度と園芸部に関わらないと誓ってください。……誓えますよね?」
私は首を傾げた。
これは脅迫だ。聖女にあるまじき行為だ。
でも構わない。
あなたたちが栗原くんの「聖域」を汚したんだから、私も「聖女」を利用してあなたたちを潰す。
震える淡路くんを見下ろしながら、私は初めて、自分の意思で戦っていた。
大好きなイガ栗くんを守るために。




