7. 剥がれた仮面
ホームルーム終了後、淡路くんが栗原くんの席に怒鳴り込んできた。
「ふざけるな! この悪臭、お前のせいだろ!」
淡路くんの声が教室に響く。
みんなの冷ややかな視線が栗原くんに集まる。
違う。栗原くんは悪くない。私は立ち上がって叫びたかったけれど、怖くて足が動かなかった。
でも、栗原くんは動じていなかった。
彼はゆっくりと立ち上がり、淡路くんを見下ろした。
「訂正しろ、淡路。俺のせいじゃない。お前のせいだ」
凛とした声。
栗原くんは、淡々と事実を並べた。
立ち入り禁止にしたのは淡路くんであること。
裏庭が実はゴミ処理の役割を果たしていたこと。
それを管理していた栗原くんを追い出したせいで、この惨状が招かれたこと。
栗原くんが話すたびに、淡路くんの表情が歪んでいく。
いつもの知的な笑顔は消え去り、汗だくで狼狽える姿は、ただの小さな「玉ねぎ」にしか見えなかった。
『今のこの腐敗臭は、お前が作った『作品』だ』
その言葉が決定的だった。
教室の空気が変わる。
クラスメイトたちの目が、栗原くんへの軽蔑から、淡路くんへの不信感へと反転した瞬間だった。
(……すごい)
私は震える手で胸を押さえた。
栗原くんは、暴力も暴言も使っていない。ただの「正論」というナイフ一本で、学級委員長の厚いメッキを剥がしてしまった。
「解決したければ、自分で土を混ぜてこい。俺はもう部外者だからな」
そう言い捨てて教室を出て行く栗原くんの背中を、誰も止められなかった。
私は慌てて鞄を掴み、彼を追いかけた。
あの背中に、もう一度「ありがとう」と言うために。




