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6. 静かなる崩壊

 教室が、パニックになっていた。


「臭い! 何これ!」

「窓閉めろよ! あ、でも閉めても臭い!」


 数日前から漂い始めた謎の悪臭。

 それは日に日に強くなり、今日はもう授業に集中できないレベルになっていた。

 おまけに、大きなハエのような虫が廊下を飛び回っている。


 学級委員長の淡路くんは、顔を青くして対応に追われていた。

『至急、用務員さんを手配して! 消臭剤を買い占めてくるんだ!』

 いつもの爽やかな笑顔は消え、焦りと苛立ちが隠せていない。


 私はこっそりと後ろの席を振り返った。

 栗原くんは、騒ぎなど我関せずといった様子で、静かに本を読んでいる。


「……栗原くん」

「ん」

「これ、栗原くんの予言通りね」


 小声で話しかけると、彼は本から目を離さずに小さく頷いた。


「言っただろ。俺がいなくなればこうなるって」


 すごい。

 彼は何もしていない。テロを起こしたわけでも、仕返しをしたわけでもない。

 ただ、「いなくなった」だけ。

 それだけで、この学園の平穏が崩れ去っていく。

 いかに彼が、この学園の環境を陰で支えていたか、みんな思い知ればいい。


「淡路くん、すごい顔して走り回ってたわよ」

「ざまあみろ、だな」


 彼がボソッと言った言葉に、私は胸がすっとした。

 淡路くんたちは、栗原くんを「陰キャ」だの「不要」だのと言って排除した。

 でも、本当に不要だったのは、彼らのプライドの方だったんだわ。


「さて、そろそろ第2波が来る頃だな」

「えっ、まだあるの?」


 栗原くんが窓の外を見る。

 つられて見ると、空に黒いモヤのようなものが浮かんでいた。

 ……あれ、全部、虫?


 淡路くんの悲鳴が聞こえるまで、あと数秒。

 私は少しだけ意地悪な気持ちで、その瞬間を待った。

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