4. 最強の防衛線
淡路くんが去って数分後。
ドカドカ、という乱暴な足音が静寂を破った。
「おい、園芸部! ちょっと場所貸せや!」
入ってきたのは、体育会系の男子たちだ。
淡路くんの手下だわ。私たちが隠れている間に呼んだんだ。
(どうしよう……!)
隙間の奥で、私は小さく縮こまった。
栗原くんは一人だ。相手は三人組。腕力で勝てるはずがない。
私がここから出て行けば、彼は殴られずに済むかもしれない。でも、今出て行けば、栗原くんが私を匿っていたことがバレて、彼も共犯扱いされてしまう。
迷って足がすくんでいると、栗原くんの低い声が聞こえた。
『絶対に出るなよ』
私だけに聞こえるような小声。
彼は、道具小屋の前に仁王立ちして、私の隠れている場所を塞いでくれた。
『断る。ここは俺の管理下だ』
男たちが近づいてくる気配がする。
怖い。殴られる音が聞こえたらどうしよう。
私は耳を塞ぎたくなったけれど、彼が戦っているのにそれもできなくて、ギュッと目をつむった。
『……警告だ。そこから先は『イラクサ』の群生地だぞ』
『は? 草なんて知るか!』
男たちの嘲笑。何かが踏み潰される音。
その直後。
『――い、ってえええええ!!?』
悲鳴が上がった。
何? 何が起きたの?
栗原くんのうめき声じゃない。男たちの悲鳴だ。
『イラクサだ。刺さると毒成分が注入される』
淡々と解説する栗原くんの声。
彼は一歩も引いていない。ずっと私の前に立ってくれている。
この裏庭のどこに何が生えていて、どこが危険か。彼は全てを把握して、それを武器に戦っているんだ。
『うわあああ! 逃げろ!!』
あっという間に男たちは逃げ出した。
足音が遠ざかると、栗原くんがふぅ、と息を吐くのが聞こえた。
『……もういいぞ』
促されて、私は隙間から這い出した。
栗原くんの背中は、いつも通り頼もしく、そして少しも汚れていなかった。
「すごい……。魔法も使ってないのに、撃退しちゃった……」
「植物の特性を利用しただけだ。イガ栗だって、中身を守るためにトゲがあるだろ」
彼はぶっきらぼうに言った。
中身を守るために、トゲがある。
その言葉が、私の胸にストンと落ちた。
(ああ、そうか。私は今、彼の『中身』に入れてもらえたんだ)
外敵を傷つける鋭いトゲ。でも、その内側に入れれば、こんなにも安全で温かい。
私は彼が「イガ栗」であることを、心から感謝した。
「うん……。やっぱり栗原くんは、私を守ってくれる『イガ栗』なのね」
私が言うと、彼は顔をふいっと背けてしまった。
その耳が、トマトみたいに赤くなっているのが見えて、私はこっそりと笑った。




