表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

2. 規格外の救い

 翌日の昼休みも、私は裏庭へ走っていた。

 もう、あそこ以外に息ができる場所はない。


「……また来たのか」


 栗原くんは、昨日と同じ不機嫌な顔で私を迎えた。

 その「歓迎していない」態度が、今の私には一番の救いだ。彼だけは、私に何も求めてこないから。


 いつもの隙間に座り込むと、緊張が解けたのか、お腹が盛大に鳴ってしまった。

 恥ずかしさで死にそうになる。

 朝からファンに囲まれて何も食べていないし、購買に行けばパニックになるから昼食も抜き。聖女というのは、かすみを食べて生きるしかないの?


「ほらよ」


 突然、赤いボールのようなものが飛んできた。

 慌ててキャッチする。

 それは、ゴツゴツとした不揃いなトマトだった。少し泥がついているし、スーパーで売っているような綺麗な丸い形じゃない。


「形が悪くて出荷できない規格外ハズレだ。やるよ」


 彼は私の顔も見ずに言った。

 規格外。

 それはまるで、今の私のことみたいだ。「聖女」という完璧な規格から外れて、泥だらけで逃げ回っている私。


(……でも)


 手の中のトマトは、太陽の熱を持っていて、温かかった。

 私は迷わず、それにかぶりついた。


 プチッ。ジュワァ。

 口の中いっぱいに、強烈な酸味と甘みが弾けた。


「……んっ! おいしい……!」


 声が出た。

 涙が出そうだった。

 高級フレンチの前菜で出るトマトより、何倍も、何百倍も美味しい。

 土の匂い。太陽の匂い。そして、不器用な彼が毎日水をやって育てた、優しさの味。


「スーパーのより、ずっと味が濃い……!」

「当たり前だ。朝まで土と繋がってたんだからな」


 彼は当然のように言うけれど、私には魔法にしか思えなかった。

 枯れかけていた私の心に、命が注ぎ込まれていくみたい。


「ただの園芸部員だ。……まだあるぞ。食うか?」

「うん、食べる!」


 私は大きく頷いた。

 口の周りが果汁で汚れているのも気にならない。

 ここなら、私は綺麗じゃなくていい。

 泥付きのトマトを笑って食べられる、ただの「白川ゆりね」でいられるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ