10. エピローグ〜収穫祭〜
秋晴れの空の下。
焼き芋の香ばしい匂いが、裏庭に漂っている。
あれから数ヶ月。私の日常は劇的に変わった。
相変わらず廊下ではファンに囲まれるし、「聖女」としての仮面も被り続けている。
でも、もう息苦しくはない。
だって、私には「帰る場所」があるから。
「熱っ……! ふふ、美味しい」
焼きたてのサツマイモを割ると、黄金色の湯気が立った。
隣には、栗原くんがいる。
彼は相変わらず無愛想で、口を開けば「土寄せがどうの」とか「アブラムシがどうの」とか言っているけれど、その横顔はとても穏やかだ。
クラスメイトたちが、遠巻きに私たちを見ているのが分かる。
最近は、誰も私に奇妙な絡み方をしてこなくなった。
『白川さんに手を出すと、園芸部の呪いがかかるらしい』
そんな噂が流れているおかげだ。もちろん、その呪いの正体は、隣にいる最強の庭師さんなんだけど。
「栗原くん」
「あん?」
「……ありがとう」
「なんだ急に。芋ならまだあるぞ」
違う。芋のお礼じゃない。
私を見つけてくれて、匿ってくれて、居場所をくれてありがとう。
言いたいことは山ほどあるけれど、全部言うと彼が「痒い」と言って逃げ出しそうだから、私は飲み込んだ。
代わりに、彼の肩に頭をこつんと乗せた。
彼は一瞬だけ体を強張らせたけれど、拒絶はしなかった。
(イガ栗くん、中身は甘いもんね)
付き合ってなんていない。好きとか嫌いとか、言葉にする必要もない。
ただ、明日も明後日も、私はここに来る。
この温かくて頼もしい、世界一安全な殻の中に。
「いただきます」
私は彼と一緒に、甘い甘い焼き芋を頬張った。




