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『ひまわりのかくれんぼ』

町はずれのひまわり畑・・今もどこかにあるでしょうか?(*‘ω‘ *)


武 頼庵(藤谷 K介)様の 25夏企画『夏の遊び企画』への参加作品になります。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1279782/blogkey/3438131/


字数制限

●作品1つを20000字以内で。

企画施行期間

●2025,7月15日~2025,8月31日まで、とされております。m(__)m

夏休みのある日、僕たちは町はずれのひまわり畑に集まった。


毎年この季節になると、背の高いひまわりが一面に咲いて、子どもたちの秘密基地になる。


ひまわりの間をすり抜けて、かくれんぼをするのが、僕たちの夏の日課だった。


「今日もやろうよ、かくれんぼ」


まなみが目を輝かせて言った。


汗をぬぐいながら、僕とこうたはうなずいた。


「じゃあ、今日は俺がオニな」


こうたがじゃんけんで負けた。


目をつぶって、ゆっくり数え始める。


「いーち、にーい、さーん……」


僕は夢中で走った。


ひまわりのざわめき、蝉の声、風のにおい。


全部が夏の音だった。


たどり着いたのは、ひまわりの中にぽっかり空いた小さな空き地。


太陽の光が差し込んで、少しだけ涼しかった。


しゃがみ込んで息を整えると、気配に気づいた。


「え・・ここにいたの?」


まなみがいた。


僕と同じ場所を隠れ場所に選んだらしい。


「ここ、好きなんだ。静かで、だれも知らないと思ってたのに・・」


まなみはおとなしい子だった。


いつも静かに、でもちゃんと自分の世界を持っていた。


「・・ひまわりって、空の方ばっか向いててずるいね」


風が吹いて、まなみの髪が揺れた。


僕はその横顔を見つめた。


(・・なんか、まなみって、可愛いな)


そんな気持ちを持つ自分をびっくりした。


そのときのドキドキを、僕はたぶん、ずっと忘れない。


「どこだーっ!」


遠くで、こうたの声が響く。


僕たちは、ふたりでくすくす笑った。


「逃げよっか?」


僕が言うと、まなみは首を振った。


「ううん。ここにいよう」


ふたりで肩を寄せて笑った。


世界から隠れたみたいに。


夏の陽射しはまぶしく、ひまわりは空に向かってまっすぐ伸びていた。


そして、そのとき、僕は思ったんだ。


たぶん、こんなふうに誰かと一緒にひまわりの影で笑った夏のことを、大人になっても忘れないんじゃないかって。


それが僕とまなみの、いちばん夏の思い出だった。



※※※※※※※※



時は流れて、大人になった。


真奈美まなみが、康太こうたと結婚することになったと聞いたのは、夏の初めだった。


正直、驚きはなかった。


資産家の息子であるあいつは、昔から足も手も速くて、何でも手に入れるやつだった。


聞けば、真奈美の家が少し大変で、安定した生活のためだという。


納得したふりをして、僕は何も言わなかった。


式の直前、電話が鳴った。


「真奈美が、消えた」


康太の声だった。


「どこか、心当たりはないか?」


その問いに、僕は即答できなかった。


でも心の奥に、ふと浮かんだ風景があった。


――あの、ひまわり畑の空き地。



※※※※※※※



数年ぶりに訪れたその場所は、半分は住宅地になっていた。


けれど、奥のほうにはまだ、あの日のままのひまわりたちが立っていた。


風が吹いて、セミが鳴いて、ざわざわと夏が鳴っている。


そしてそこに、まなみはいた。


背中を丸めて、ひまわりの茂みに身をひそめるように座っていた。


空を見上げて、まぶしそうに目を細めていた。


風が、ひまわりの葉を揺らすたびに、その髪もそっとゆれていた。


「・・見つけた」


僕は流れる汗を拭い、そう言った。


懐かしくて、でも少しだけ震える声で。


まなみが、ゆっくりとこちらを振り向いた。


「みつかっちゃった・・覚えててくれたんだね?」


笑っていた。


でも、その目は少しだけ潤んでいた。


「嬉しかった・・でも、もう逃げないよ」


そう言って、まなみはゆっくりと立ち上がった。


まるで、しゃがみこんでいた時間が、何かを抱えていた年月そのもののようだった。


陽射しが彼女の背を照らして、ひまわりの影がすっと伸びた。


まなみの顔は、ひまわりの間から見える空のように澄んでいた。


僕は、彼女が今ここで『覚悟』を決めたのだとわかった。


だから、僕は言った。


「逃げてよ」


彼女が一瞬、目を見開いた。


「え?」


「いっしょに。鬼の手の届かない場所に」


静かに、でもはっきりと。


まなみは小さく息をのんだ。


そして、微笑んだ。


その笑みは、子どもの頃に見せた、あの秘密の場所での笑顔と、まったく同じだった。


次の瞬間、まなみは僕の手を取った。


何も言わずに、強く。


僕たちふたりは、ひまわりの間をすり抜けるように走り出した。


風がざわざわと音を立て、セミの声が夏の空に響いた。


誰にも見つからないように。


鬼にも、世界にも、もう届かない場所へ。


挿絵(By みてみん)


夏のひとときの記憶は、ずっと心に焼き付いているのかも知れませんね。(*'ω'*)


この度は、武 頼庵(藤谷 K介)様 25夏企画『夏の遊び企画』開催、ありがとうございました。m(__)m

(リレー小説で命燃やして書いたら、珍しく夏風邪をひいてしまい、頭がボーっとしてますw٩( ''ω'' )و<食欲は旺盛だー!パワー!w)

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― 新着の感想 ―
こまの柚里さまの活動報告から参りました。 過去の思い出のひまわりは空ばかりは、彼のことでもあったのかな?と、最後まで読んで思いました。 逃げてよと言った彼女に応えてくれた彼との未来が幸せであるといいな…
ひまわりの中にぼっかり空いた小さな空き地。 2人だけの秘密の隠れ場所。 青春ですね。 『・・ひまわりって、空の方ばっか向いててずるいね』と言うまなみの言葉が印象に残りました。 鬼の手の届かない場所に逃…
わあ、青春のお話だ!(#^^#) ひまわり分かる~、まじでひまわり畑に隠れたら見つからないですよね!(笑) 二人にとっていい未来がありますように!
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