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英雄の再誕-9

「大丈夫ですかい?」

 隣を歩く八が尋ねた。

「ああ、大丈夫だ」

 むすりとした顔を作って貝介は答えた。八はふうん、と唸って前に向き直った。言葉通りだと思わせることはできただろうか? 少なくとも、いつも通りの顔だと思わせるくらいはできているかだろうか?

 半ば逃げるように馬鈴の甘味処を辞した貝介に、八は何も言わずについてきた。

 入り組んだ細い道の角を曲がりながら、ちらりと八の横顔を見る。いつもと同じ穏やかな微笑み顔。貝介は八が動じているところを見たことがない。

 八はどのような気持ちで平賀アトミックギャル美と自分のやり取りを聞いていたのだろう。八の顔からはどのような感想も読み取れない。

「変わった娘でしたな」

 貝介の眼差しをどのように解釈したのか、八はいささか唐突に切り出した。貝介は少し救われた気持ちで頷く。

「まさか発狂頭巾を作ってるのがあのような小娘だとは」

「あの平賀エレキテル源内の娘ですからな」

 八はおどけたように肩をすくめた。その名を聞いて、貝介は思い出す。

「八、お前は平賀エレキテル源内にあったことはあるのか?」

「ええ、吉貝の旦那と懇意にしてらしたからな。あっしもよく実験に付き合わされたもんですよ」

「どんな方だったのだ」

「まあ、随分変わった方でありましたなあ。もちろん、頭はよかったんでしょうが、凡人にゃあ理解できん振る舞いもよくなさってた」

 そう言って八はクスリと笑って続けた。

「そういうとこが吉貝の旦那と気が合ったのかもしれませんな」

 八の目はどこか遠くに向けられていた。おそらくはもういない二人のやり取りに。きっとそれは貝介の知らない父の姿なのだろう。

「父は……」

 問いかけは、口から出た瞬間に絡まって消えた。

 貝介は慎重に考えを解きほぐす。吉貝が命を落としたのは、貝介が幼い時だった。かすかな記憶だ。その記憶の中の父は、いつも優しい顔で笑っていた。

 八が不思議そうに首をかしげる。

 貝介は口を開く。

「その……父も、『変わって』いたのか?」

「ああ」

 貝介の問いに八は前を向いて目をそらして唸った。少し考えてから言葉をつづける。

「まあ、発狂頭巾をやってた方ですからね。あっしにはわからんことをよくしてらっしゃいましたね」

 曖昧に濁された言葉。貝介の口からため息が漏れた。

「そうか」

「いや、そういう摩訶不思議なところが旦那らしいところでしたから」

「そうか」

 珍しく慌てた様子で取り繕う八に、貝介は相槌を繰り返した。

「そうでやすね、旦那と平賀エレキテル源内さんと言えば……」

 どん、という軽い音がして八の言葉が途切れる。

 八の足元を見下ろすと、一人の幼子が尻もちをついていた。

 あたりを見渡して、貝介は自分たちがいつの間にか大通り出ていたことに気が付いた。どうやら通りを駆け回っていた幼子が、八に激突してしまった、ということらしい。

「ああ、すみません。すみません。お怪我はないですか?」

 背後から聞こえた気弱そうな声に振り返る。一人の男が青ざめた顔でぺこぺこと頭を下げていた。風が吹いたら倒れそうなほど痩せた男だった。

「いいえ、あっしは大丈夫でやすよ」

 八は笑って尻もちをついていた幼子に手を差し伸べる。幼子の顔を見て八は少し驚いた様子で言った。

「おや、君はもしかして」


【つづく】

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