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英雄の再誕-8

「あはははは! はは、ははははっははははは!」

 平賀アトミックギャル美の口から、はじけるように飛び出したのは笑い声だった。平賀アトミックギャル美は体を折り曲げ、腹を抑え込み、のたうつように笑い声を上げ続けた。とめどない笑い声が、甘味処の店内に木霊する。

「な、なにがおかしい!」

 思わず、貝介は怒鳴っていた。いつの間にか拳をぎゅっと握りしめていた。そうしないと平賀アトミックギャル美の笑い声に飲み込まれてしまいそうな気がしていた。

 八に目をやる。八は油断なき目で平賀アトミックギャル美をじっと見つめている。そうだ、と貝介は思い出す。八に教わったことを。狂気の相手への対処法を。

 貝介は笑い続ける平賀アトミックギャル美に視線を戻した。まずは見ることだ。見なければなにもわからない。動きも、危険も。危険の起こりがあれば、即座に判断し、反応する。それを見逃してしまえば、誰かが命を落とす。周りの者か、自分自身か。

「なにが、おかしい」

 もう一度、声をかける。今度は先ほどよりも低い声で。下腹に力を込めて。

 不意に笑い声が止まった。煌めく橙色に彩られた目が貝介の方を向く。その目がきらりと光った。滑らかな動きで貝介の手が鉈の柄に伸びる。

「え、ああ、ごめんごめん」

 平賀アトミックギャル美が顔を上げる。貝介は僅かに緊張を解いた。目の輝きは涙によるものだった。

 目元を拭いながら、アトミックギャル美は口を開く。

「なんだー、貝介っち、そんなこと気にしてたんだ」

 その口から出たのは驚くほどに朗らかな明るい声だった。貝介は眉を顰める。その口調も、おそらく自分を指しているであろう呼称も意図が読めない。

「いやいや、なんか最初っからえらくサゲサゲな顔してっからどしたんだろって、思ってたんだよね。それが」

 平賀アトミックギャル美はここでもう一度噴き出した。笑いをかみ殺しながら言葉を続ける。

「なに、パパのこと気にしてたって、まさか、そんなんだとは思わないじゃん」

「だが、事実だ。お前はお前の父親の仇である発狂頭巾の物語で富を築いているではないか」

「そだよ。でもさ」

 平賀アトミックギャル美は頷く。

「それがどーかしたの?」

「どうって」

 貝介の口の中で言葉が絡まる。一瞬の躊躇い。気が付くと平賀アトミックギャル美は貝介の目前まで近づいてきていた。

 平賀アトミックギャル美の大きな目が貝介の顔を下から覗き込んでくる。貝介は目をそらそうとする。澄んだ黒色の瞳に吸い込まれるようで、目をそらすことができない。

「大丈夫だよ」

「なにがだ」

 かろうじて、声を絞り出す。平賀アトミックギャル美は貝介を見据えたまま言葉を続ける。

「ウチは別にそんなこと気にしないから。パパはやりすぎた。発狂頭巾に殺されても仕方がない領域にまで手を出した。だから死んだ。そういうものでしょう? 発狂頭巾って」

「それは、違う」

「そう? ウチはそうだと思うよ。そうじゃないって言うならさ」

 平賀アトミックギャル美の目がきゅっと細くなり、美しい半円の弧を描く。

「それは、貝介っちがそう思いたいだけなんじゃないの?」


【つづく】

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