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英雄の再誕-7

「貝介さん」

 八が貝介の目をまっすぐに見つめてくる。その目はひどく穏やかな目だった。

 沈黙。

 貝介はため息をついた。

「わかってる」

 鉈の柄を握っていた手を緩める。同時に八の手も緩む。八は肩をすくめて笑った。

「平和が一番ですぜ」

「そいつが平和を乱してるんだろうが」

 貝介は平賀アトミックギャル美を睨むと吐き捨てるように言った。

「ん? どったん? 貝介さん。なんかすげえおっかない顔になってるんですけど」

 平賀アトミックギャル美は、無邪気な笑顔で貝介に笑いかけてくる。貝介の顔に浮かんだ表情など、まるで気にしてもいないかのように。

 貝介は目をそらす。自分の怒りが間違っているとは思わない。それでも、今ここでその感情を爆発させることが適切ではないとわかる程度には理性が戻ってきていた。

 もう一度、ため息をつく。振り返り、鳥沼の方に向いた。務めて冷静な口調を作って尋ねる。

「鳥沼さん、今日のところはこのぐらいでよいですかね。例の件については調べてみます」

「うむ、儂の方でも動いてみる」

 鳥沼の表情はずっと変わらない。一貫して厳めしい顔だ。その冷静な目線を受けて、貝介は目を伏せた。

「えー? 貝介さん、帰っちゃうの? 多忙さんじゃん。色々聞きたいことあったんだけど。ああ、わかった、じゃあ思考鏡の番号教えてよ、ヒマしてる時に話聞かせてよ」

 能天気な声に、貝介は深呼吸をして黙り込む。平賀アトミックギャル美は首を傾げる。沈黙に八が助け舟を出した。

「あー、平賀アトミックギャル美さん? 貝介さんは思考鏡があんまし得意じゃありませんでね。俺みたいなおじさんでよければ、代わりに教えて差し上げますがね」

「え! でも、おじさんって八さんじゃん? いやいやむしろこっちからお願いしたいくらいだし。え、今はダメなん? なんでもいいから話聞かせてよ。あれってホントなの? 吉貝の一の子分だったっていうの」

「よく、自分の親の仇のことを楽しそうに書き続けられるな。親不孝者がよ」

 抑え込んでいた口から滑り落ちた言葉は、とげとげとした苦みを伴う憎悪だった。

「え?」

 平賀アトミックギャル美はこの店にやってきて初めて黙り込んだ。

 沈黙。

 気まずい沈黙だった。貝介は息を吸い、眉間をさすった。みだりに発すべきでない言葉はある。

 例えば、ねじの外れた発明家の汚された晩節を語ること。その狂行を止めたのが、命を奪ったのが自分の父親である場合にはとくに。

 貝介は顔を上げて、ちらりと平賀アトミックギャル美の顔を見た。あっけにとられた顔で、鮮やかな紫色に縁どられた口が大きく開かれている。さすがに何か堪えるものがあったのだろうか。

 言うべきではなかった。衝動に身を任せるべきではなかった。あらためてそう思う。

「すまない」

「え? あ、ああ」

 謝罪の言葉に返ってきたのは、ひどく曖昧な声だった。

 声は曖昧なまま少しだけ続き、唐突にはじけた。

「あは、あはははっはははははは!」


【つづく】

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