表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
発狂頭巾二世-Legacy of the Madness -  作者: 海月里ほとり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/51

英雄の再誕-44

 ひたひたと暗い廊下を歩いていく。まだ痕跡は確かに見えている。

「なあ、八」

 静寂の中、貝介は低い声を出す。八が目だけを貝介に向ける。

「もしも、俺が……」

 続く言葉を思い浮かべて、貝介は口を閉ざす。八は何も言わずに前に向き直る。何を言おうとした? 

 もしも、俺が――

 ――発狂頭巾になってしまったなら。

 貝介は吞み込んだ言葉を追い払う。何を馬鹿なことを。自分は発狂頭巾ではない。父親は発狂頭巾だが。発狂頭巾は遺伝するものではない。貝介はヤスケの父親との会話を思い出す。あの時に胸に乗り移った熱を。むしろあれは、感染するような熱。流行り病のように。言葉が呼び起こす欲求。

「次はどっちですかね?」

 曲がり角で八が尋ねる。

「右だ」

 貝介は痕跡の続く方を指差す。

「何がいるかはわからんですがね」

 八は立ち止まったまま、貝介の顔を見つめた。

「何かに気を取られてちゃあ、勝てるもんにも勝てんですぜ」

「わかっておる」

 貝介は目をそらし、歩き始める。そんなことは分かっている。予想もつかない行動をしてくくる発狂模倣者に打ち勝つには、絶えず集中していなくてはならない。一瞬でも気がそれれば、それが最期の瞬間となる。

 教練の最初の日に教わったことだ。父の部下のおじさんが支障となったあの日に。

 貝介は自らの頬を張った。

「すまん、先にいこう」

 何が待っているにせよ。自分たちにできることも、するべきことも決まっている。判断し、対処するだけだ。


 ◆


 光痕は次第に強くなる。貝介は声を潜めて言った。

「あそこだ」

 廊下の先、奥まった一室から幻の光は煌々と漏れていた。

 貝介は、振り返り八に手で合図を送る。八は頷き、足音を忍ばせて貝介の少し後ろに位置どる。急襲を受けたときに援護できる立ち位置。貝介はゆっくりと扉を細く開け、中の様子をうかがう。

 眩い光が部屋を満たしていた。光は机の上に置かれた数冊の本から発せられていた。部屋の中には誰もいない。少なくとも見える範囲には。貝介は八にさらに手で合図を送り、扉を押し開く。八が音もなく部屋に滑り込む。

 目を見開き、部屋の中を見渡している。八にこの光は見えているのだろうか? 八が振り返り、手招きをする。

「おやおや、お足の速い」

 突然、背後から声が聞こえた。完全に不意を突かれる。貝介は前に跳び、声から距離を取る。同時に腰の非振動鉈を抜き放つ。

「何者だ!」

「ああ、やっぱり、貝介さんじゃありませんか」

 鋭い誰何に返ってきたのはひどく落ち着いた声だった。聞き覚えのある声だった。

「ヤスケの」

「どうしたんですか? こんなところで」

 ヤスケの父親は笑みを浮かべながら首をかしげる。ヤスケと話しているときの優しげな顔とは全く違う、獰猛さを感じる笑顔。

「それはこちらの台詞だ」

「ちょっと、道に迷ってしまいましてね」

「迷い込むようなところでもなかろう」

 その笑顔を睨みつけ、貝介は尋ねる。

「嫌だなあ、そんな怖い顔をして」

「ごまかすな。なぜここにいる」

 少しだけ間が空いた。細く弧を描く目が部屋の中を覗く。光輝くその部屋を。

「そんなの、わかっているでしょう?」


【つづく】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ