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発狂頭巾二世-Legacy of the Madness -  作者: 海月里ほとり


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36/51

英雄の再誕-36

「あら、もうそんな時間?」

 空夜がわざとらしい口調で窓の外を見る。

「ええ、申し訳ないですが、そういうわけですので」

「あんまりお菓子が美味しいから、時間があっという間に過ぎちゃった」

 そう言いながら、空夜はテーブルの上にずらりと並ぶ大量の空の皿を指差す。いずれも甘味が乗っていた皿だ。

 貝介が見ている間だけでも、メニューの半分を制覇していたが、少し目を離したすきに増えている皿もあった。半分以上機械で構成される空夜の身体に甘味がどのような影響を与えているのかはわからない。甘味の熱量を動力に変える機能がついているのかもしれないし、消化器官は生身なのかもしれない。もしかしたらそんな機能などそもそも存在せず、甘味をこれだけ食べるのはただの空夜の好みなのかもしれない。

「腕を上げたわね」

「ありがとうござます」

 厳粛な顔で馬鈴が頭を下げる。それから言いにくそうに切り出した。

「それで、閉店時間なのですが」

「まだ食べたりないのだけど」

「明日も開店しておりますので」

「空夜の姐さん、行きましょうよ」

 荷物をまとめながら、八が立ち上がる。貝介も机に立てかけていた振動鉈を腰に提げなおす。

「それにしても、随分繁盛しているようじゃない」

 もうほとんど客が帰り、無人となった古本屋の部分を見ながら空夜が言った。

「ええ、おかげさまで」

 再び、馬鈴が頭を下げる。

「私もいつも使ってるお店がこんなに繁盛していると嬉しいわ。前はいつ潰れちゃうかはらはらしちゃってたもの」

「本当に、その節はどうも。最初に話をいただいた時にはどうかと思いましたが」

 貝介はそのやりとりを聞きながら、「やはりか」と得心する。巷に件の噂を流すに際し、馬鈴にも何らかの通達を行っていたらしい。

 考えてみれば、さりげなく売り場の様子を見張ることができるという意味ではこの馬鈴堂はうってつけの条件なのかもしれない。噂を流して売り場にいくらかの『写し』を紛れ込ませて、評判を上げる。その見返りは繁盛自体ということだろう。

「あの、それで、申し上げにくいのですが」

 遠慮がちな馬鈴の言葉を、空夜は笑みを浮かべたまま受け流す。

「空夜さん?」

「ねえ、本当に帰っちゃっていいの?」

 優美な弧を描く口から発せられたのは凍るような冷たい声だった。馬鈴が首をかしげる。

「はい?」

「このお店すごく評判だけど、私、こんな噂を聞いたわ」

「あー、どんな噂ですか?」

「『このお店にはずっとすごい物理草紙がある』」

 ぴたり、と馬鈴の表情が固まる。一瞬だけだ。すぐに馬鈴は笑って答える。

「ただの噂でしょう? 根も葉もない」

「そうね。きっと根も葉もない噂でしょう。でも、熱心な模倣者さんたちも同じように思うかしらね」

 沈黙が流れた。動くと皮膚が切れそうな張り詰めた沈黙だった。

「それで、どうしろと?」

 馬鈴のため息交じりの問いかけが沈黙を破る。

 空夜はにっこりと笑って答えた。

「せっかくだから私たち発狂改方が見張りについてあげるわ」

「ありがとうございます」

 無感情に起伏のない声で馬鈴が礼を言った。

「お礼はいいわ。でも、ちょっと口がさみしいわね」

「ええ、それじゃあありがたく、新商品の試作品でも提供させていただきますよ」

 馬鈴は深いため息をついて厨房に振り返った。


【つづく】

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