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英雄の再誕-13

「く、くるうておるの……は」

「それはもういい」

 容赦も躊躇いもなく、貝介は鉈の背を男の頭部に叩きつけた。鈍い音が響く。貝介を睨んでいた輝く眼光がそのままぐるんと上を向く。

「終わったぞ」

「見事なもんですな」

「このくらいできないと、お前も困るだろう」

「そりゃあそうだ」

 肩をすくめながら、八は懐から細引き紐を取り出し、力なく地に伏した男を手際よく縛り上げる。

「変なもん持ってないか、調べてもらえますかい?」

「ああ」

 貝介は頷き、男の懐を探る。

「ん」

 貝介の眉が寄る。男の脇腹のあたりに冷たい感触があった。

「隠し義体ですかい?」

「ああ、多分影腕だ」

「使われる前に倒したのは正解でやす」

「ああ」

 八の言葉に貝介は肩をすくめる。咳払い。ごまかすように男の身体を探り続ける。

「あとはこれか」

 男の伸縮腹巻の中から思考鏡の部品とともにいくつか紙束が出てきた。紐で束ねられた小さな草紙だった。表紙には頭巾をかぶった男の躍動するような絵が描かれている。

「物理草紙まで携帯してるとは結構な熱狂者ですな」

「ああ」

 発狂頭巾の熱狂的な愛好者は幻影画で製作された発狂頭巾だけでは満足できず、発狂頭巾の物理草紙に手を出すことが多い。幻影画が主流になって以降も物理草紙は発行され続けているけれども、複製画容易な幻影画と異なり、部数の限られる物理草紙の入手は非常に困難だ。

「え、それ、なあに?」

 肩越しに声が聞こえた。しゃがみこむ二人の肩越しに、ヤスケがのぞき込んでいた。

「こら、ヤスケ」

 父親が強い声で叱りつける。

「邪魔をしちゃいけないよ」

「でもおとう、あれ、発狂頭巾だよ」

「いいから」

 すみませんね、と父親が申し訳なさそうに謝ってくる。八が首を振って答えた。

「物理草紙なんてなかなか見ないでしょうからな」

「物理草紙は知ってるよ。でも、その草紙は知らない」

「え?」

 ヤスケの言葉に貝介は物理草紙の表紙を改めて眺めた。記憶の中を探る。

 たしかに見覚えのない表紙だ。

「八」

「ええ」

 八は思考鏡を取り出し、装着する。思考鏡の表面を粒子が駆け巡る。思考鏡に接続された思考端末の中を、思考鏡の思考代行虫が情報を探して駆け回っているのだ。探しているのは男の懐から出てきた発狂頭巾の草紙の表紙絵。だが

「ないか」

「はい」

 八が調べるより早く、貝介は確信していた。

「私家製造か、闇の販路の線は?」

「発狂改方の情報網は全部抑えてあるはずですぜ」

「知っている」

「では、これは何です?」

「わからん」

 八とのやり取りは分かり切ったことの確認に過ぎない。八もわかっているはずだ。

 貝介は物理草紙を見つめた。手のひらの中で物理草紙が不気味に蠢いたような気がして、貝介は物理草紙を八に押し付けた。

「ヤスケ、といったか」

 貝介はヤスケに向き直っていった。じっとヤスケとその父親に目線を送りながら言う。

「このことは誰にも言ってはならんぞ」

「うん」

「わ、わかりました」

 貝介の形相に、二人は怯えた表情で頷いた。

 その時であった。

「おぬしか……」

 細く、高い声が聞こえた。


【つづく】

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