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落下しよう

 ありがとう、という言葉を飲み込むのに時間が必要だった。

 いままでの人生で一度も言われたことのなかった言葉だった。

 大抵の人間はこの能力を使うと「卑怯」だとか「正々堂々戦え」だとか、そんなことを言うから。


 でも彼は違った。

 シャム・アヴィス。〝打刻〟のアヴィス。

 彼の言葉には「尊重」があるように思えて仕方がなかった。

 此方の勘違いだろうか。

 それでもいい。「ありがとう」と言われた嬉しさに比べれば、そんなもの、大した問題ではなかったからだ。


 戦う姿も他の人間にはない格を感じる。

 まるで何処かの神話から飛び出してきた模様。


 この人は何かが違う。俺は不意にそう感じた。


「よしっ、よしよしっ! 大抵の信者はこれで沈滅完了だな」

「たいへん疲れた。飯を食って眠りたい」

「まだ寝るなよ~。これからみんなと合流だ」

「此処に呼べ」

「言われなくとも此処に来るだろうね」


 ふたりは何かを話して、此方を向いた。


「よし。君も此処に居てくれ」

「えっ」

「君、行くアテあるかい?」

「いやっ、ないですけど……」

「だろ。なんとなくそう思ったんだ」

「人によっては失礼な言葉過ぎるな」


 シャム・アヴィスさんの言葉にヘルトさんがツッコミを入れた。


「だから、君を俺のパーティに入れる」

「いいんですかっ!?」

「ああ。だがまずは冒険者だな。君、冒険者には見えないが……冒険者とかやったことある?」

「まだないです」


 ならば登録からだ! と彼は笑う。


「いいのかー。裏切られたときが痛いぞ。姿を消せる能力は」


 ヘルトさんがそう言った。

 確かに、そうだ。姿を消せる能力者なんて離反した時のことを考えれば仲間に加えるべきではない。

 その言葉に納得して、この能力を恨んだ。


「大丈夫」


 彼は言った。


「俺を助けてくれたじゃないか。気取られないように、姿を消して。俺のために銃を取ってくれたじゃないか。大丈夫だよ。この能力が君に芽生えてくれたお陰だもの」


 彼はそう言って、俺の頭を撫でた。


「とっても心強いじゃないか」


 思わず見上げる。そして、その瞳に気圧された。まるで嘘なんてついていない様な顔で、此方を見てにっこりと微笑んでいる。


 多分、本心で言っているんだ。


「それに俺の方がつよい! 断固として!」

「張り合うな」


 ぼふん、と蒸気とともに彼の皮膚は褐色に戻った。


 それとほとんど同時に女性が3人やってきた。


「馬鹿どもオラァッ!」

「キャーッ!」


 青髪の女性がシャム・アヴィスさんにドロップキックを食らわせた。


「おお、ドロップキック」


 ヘルトさんが感心したように言う。


「騒ぎを起こさないと気が済まないのか! 君は! もうっ! 本当に! 本当に! 街をひとつ壊滅させる騒ぎだぞ!」

「ミリニオ教の街だった!」

「だとしてもさぁ……」

「おい、待て」


 ヘルトさんが言うと、金髪の上品そうな女性が何かに気付いたように下を向く。


「どうしたの。ジャネタさんまで」

「地下で何か動いてる」

「なにか……?」


 亀裂が入っていく。


「崩壊……しそうだね」

「ふむ」


 僕たちは落下した。


 茶髪の女性が手の平を突き出して、叫ぶ。


「力を貸して、グリフォン!」


 すると、光り輝き、グリフォンが現れた。

 獅子の胴体、鷲の頭・翼・脚。まさしくグリフォンだ。

 まさか、グリフォンを召喚したのか……!?


「ぐ、グリフォンは絶対に人に懐かないって」

「ドナさんは凄いんだぜ」


 シャム・アヴィスさんが仁王立ちの状態で落下しながら言う。


「全ての精霊と友好を築いてるんだ」

「お前の真逆だな。」


 ヘルトさんが脚を組み腕を頭の後ろに回した様な状態で言う。


「こいつは獣人が好きでな。去年の冬に獣人に形の近いコボルトに度を超えたセクハラをしすぎて精霊界から『シャム・アヴィスお断り』という言い渡しが出された」

「言うなって」

「どんなにいい人でもひとつは悪いところがあるんですね……」

「ひとつ所じゃないけどね」


 青髪の女性は真っ逆さまになりながら言う。


「ボクから意味もなく5万を借りたりね」

「言うなって!」

「人前で全裸になることに躊躇いがないしね」

「言うなって!!」

「すぐ騒ぎを起こすものね……」

「言うなよっ!!」


 でも、なんだかんだ言って、みんなシャム・アヴィスさんの事が好きみたいで、セクハラだの全裸だの以外はとても微笑ましそうに言っていた。


 セクハラと全裸はダメだろ。

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