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〈クラフト〉炸裂

 そんなこんなでドナータさんの護衛の日々が過ぎていく。時折報告として屋敷の主人──つまりドナータさんのパパ──にドナータさんとの日々を報告する。その時はハンナさんに見守りを頼む。


 報告を終えると、ハンナさんはドナータさんとパンケーキを作って待ってくれている。それが楽しみになっていたりする。めちゃくちゃ美味いから。


 最終日8月22日まであと6日。


 というところで──


「ドナータさん?」


 ドナータさんが姿を消した。


 ドナータパパに報告をしている最中、話し合いの途中だというのにハンナさんが確認も取らずに部屋の中に入ってきたので、ドナータパパは最初お説教モードに入ろうとしていたが、ハンナさんが「お嬢様が消えた」という話をすると、みるみるうちに顔が青くなっていく。


「鉄製品あります?」


 俺は尋ねてみた。


「トンカチとか、肩当てとか、胸当てとか。なんでもいいですよ」

「鉄……なら……」


 ドナータパパが無気力に床板を外した。そこには鉄貨幣があった。鉄貨幣の価値は1000タータほど。1000タータ!! 1000タータが……こんなに!? もう金持ちやん! あっ、金持ちか。


「これどのくらいまでなら大丈夫?」

「何に使う気だ?」


 鉄貨幣を一つ取って〈クラフト〉を発動する。釘が1本か。なるほど。なら、6枚とプラスで25枚。25+6だから……。


「25+6だから……」

「…………」

「にじゅう……」

「31では……?」

「そう!」


 赤っ恥。


「それじゃあたらふく貰っていきますね。……あとで請求してこないでね」

「そんなことはいい。構わない」

「よしきた」


 俺はキャバレー「ドクロ」に脚を運んだ。



 ◆



 トイレをして出ようとしたところ暑いため開けていた窓から男が腕を突っ込んできてさらわれた。やくざは私をさらってキャバレー「ドクロ」に篭ると、鍵を厳重にかけた。テーブルの上には手術道具のような銀のものがぎらぎらとしていた。


 シャムくんから貰った拳銃を向けると、すぐに腕を決められて拳銃を奪われ部屋の入口のところに投げられた。


「まずは眼球をえぐって……あとはそうだなァ、ヤク打ってアヘアヘにしてやろう」

「そしたらな! まずな! エヘエヘエヘ、な! はは、な! な! ヤろうな! きもちくしてあげるから! な!」

「やめて」

「うるせい! エヘエヘエヘ、いまはそんな顔をしているけれど、いずれほっぺな! 赤くしているからな! 楽しくなって、自分から欲しくなるからな!」


 ぺぺん、と。その時、音がした。


 やくざは最初みんなその音を無視して私の服を脱がせたり肌を触ったりしていたが、その音がメロディになっていくと、顔をあげた。


「来ちゃった」


 乳白色のギターを持って、シャムくんがいた。傍には大きな麻袋がある。


「誰だテメェ」

「というか……鍵な! 閉めてたよな!?」

「鍵? ああ、作ったよ。俺、作れるからさ……んで、そのハジキ……返してもらえるか?」


 私の姿を見て、シャムくんは額に青筋を浮かべていた。シャツは袖を捲っていて、腕には太い血管が浮かんでいる。 


「不法侵入だから死ね!」


 やくざ達が拳銃を向け、引き金を引く。


 すると、シャムくんは麻袋から紐で連ねた鉄貨幣を大量に出して床にばらまいた。そして、彼は指をパチンと鳴らす。


「〈クラフト〉──盾」


 床の木材に鉄貨幣がぶつかると、ぽーんと大量の盾が飛び上がる。盾は弾丸を弾き、男たちの手から拳銃をたたき落とし、男たちの腹に打撃を入れた。


「な、なんだァっ!?」

「さーてお嬢さん達……」


 びきびき、と音がする。盾が下に落ち切ると、下っ端やくざのひとりの腕が弾けた。


「貴様……殺せ!」

「攻撃系ライク持ちは全員奴を狙え!」

「支援系は支援しろ! 隙間なく奴を殺せ」


 彼は「止せよ」と言うと、盾を拾い角でやくざを殴った。ぐらっとしたやくざの頭を掴み床にたたき付ける。


「〝英雄の夜明け〟を追い掛けつづけた身体能力だぜ」

「チィッ! こいつ……!」


 彼はやくざが手放した弾丸に紐を巻付けるとライクを発動したらしく、拳銃が姿を変えて爆弾になった。ライターを出して、火を付ける。


 小さな爆発が起こると、この場に居たやくざは全員気絶し、無力化が完了した。


「さてドナータさん。こっちへおいで」


 服を掴んで彼の元へ行く。


「行こう」

「つ、強いんだね」

「人間にいきがってる様な奴よりはね。だってこちとら冒険者だぜ? 冒険者の戦闘力って最低でも5000なんだ。普通に殴ると破裂してしまうから武器を使いました。警察呼ぶかい?」

「…………いらない」


 君の事だからもう呼んでるんでしょ。


「そう。じゃーお屋敷に帰ろう! 見てこれ。お金貰っちゃった」

「なんでこの場に……? 倒す気だったんでしょ?」

「俺のライク〈クラフト〉って言うんだよね。素材があるとアイテムを作成できるんだ。まぁ〈作成〉とほぼ同じ能力でさ。〈作成〉と違うところと言えばアイテムの同時作成が出来ない、というところくらい」


 彼はそう言って鉄貨幣を釘に変形してみせた。


「…………」

「作成にかかる時間は俺の勝ちね。〈作成〉は最低でも2秒かかるけど俺は1秒もかからないし。そう考えると俺の〈クラフト〉ってすげー能力なんだなあ」


 彼は重そうな麻袋を顔を赤くしながら持ち上げて、足腰を振るわせながら歩き出した。鉄だから、それなりに重いよね。


「私が持とうか?」

「え!? いや、レディにこんな重いもの持たせるなんてそんな」

「大丈夫!」


 私は彼の持つ麻袋に手を触れさせて精霊の力を見せてみた。


 精霊というのは、この世界と紙一重で隣合わせになっている別の世界にいる動植物の事で、精霊は凄い力を持っている。


 私のライク〈精霊王〉はそんな精霊に力を貸してもらう能力。


「コボルト、力を貸して」

『了解した』

「うわっエロッ!」


 パイプをふかしたオオカミの妖精が現れた。


「エロ……?」


 シャムくんの言動は度々おかしい。屋敷に週に一度やってくる獣人の商人に「一夜だけ」と土下座して懇願していたところを見たことがある。


 前に「好きな人がいる」とか言ってたけど、浮気性なのかな。まだ15歳なのにめちゃくちゃ爛れた人間関係してたらどうしよう。


「とりあえず帰ろう。コボルト、屋敷まで!」

『承知した』

「スゲー能力だね。コボルトさんはエッチだし……うらやましい……。……行くよナンちゃん」


 ナンちゃん?

 と首を傾げていると、部屋の壁に立てかけていた乳白色のギターが形を変えてナンちゃんになった。


「ナンちゃんはシェイプシフターなんだぜ」

「はぇ~……」

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