もう1回やろう
狼蛾の世界 豆知識
1タータ=35円
液体を認識できなくする能力。名は〈閏水〉。
いかなる法則の中にあっても、それは認識できない筈。
でももし、その絶対的ルールを通り抜ける何かがあった時。
「それは神の領域ですよ!」
ミリニオ教のセントリー・ハンカンがそう言って笑った。
本当に不気味な笑顔で、狂気を見出だした。
でも私はこんな狂気の連中にもまるきり何もやり返せないほど小さな存在。本当に惨めで、惨めで、惨めで、惨め。
愛する人が殺されて、私は何もできなくて、娘をも。
もう失いたくないのに、失うことしかできない。
それ以外で自分にやれることというのがまるで無い。
「誰か助けて」
「承知した」
ばきり、という音がふたつ。
ひとつは、〝標の一団〟パーティリーダー、〝打刻〟のシャム・アヴィス。ミリニオ教における危険度では星5つ。
そしてもうひとつは〝標の一団〟所属のヘルト。ミリニオ教における危険度では星4つ。
「〝打刻〟のアヴィスとその狂犬! あー! ミレニアムさんが言ってた人が来た! 本当に来た! きゃっきゃ」
「ミレニアム……あの男はここにいないのか。何処にいる?」
「教えねーよバーカ!」
セントリー・ハンカンがシャム・アヴィスに銃弾を放つ。
その銃弾はシャム・アヴィスを擦り抜けると窓を突き破った。
「弾の扱いが大いに下手くそだな」
「えー? そうですかね、まぁ、習いたてなので」
「そうか。励めよ」
「はい!」
セントリー・ハンカンは剣を抜くと、シャム・アヴィスに斬りかかる。シャム・アヴィスは避けるでもなく、四角形の木材をその剣に当てる。
まるでバターのように木材が裂けていく。
あれで防御できる訳が無い……!
「仕方の無い奴だな、お前は」
「そうですかね?」
「そうだよ」
シャム・アヴィスの手の平が光を放つ。能力が発動した。
すると、剣身がパキンと折れて木材と混ざり、盾になる。
その盾を、ヘルトがシャム・アヴィスの頭に腕を突き刺す様にして殴る。
セントリー・ハンカンはその衝撃に吹き飛ばされた。
「えーっ! 反則だよ! その〈等価〉って能力!」
「知らん。泣き言を言うな」
ヘルトは拳を握り締めて踏み込む。
「死にたくなければ避けたまえよ」
「いまのお前、的に見えるぞ」
シャム・アヴィスの言葉にヘルトが続ける。
そして、彼が殴り飛ばすと、瓦礫が飛ぶ。
瓦礫はシャム・アヴィスをすり抜けて、此方に来た。
「ナタリー」
「わかってるよ、もう!」
瓦礫は何かに弾かれた。青髪の女が立っている。
ナタリー・コルケットだ。危険度星2つ。
「やっぱり君ちょっと〈等価〉発動中は態度がでかいな」
「無駄口を叩くな」
「張り合いが無いねェ~!」
そこでとうとう黒服達がやってくる。多数対少数。
それに彼らは私というお荷物を護っている状態。
だめだ、この状況じ……敵わない!
「わっ、私は捨てていい! あいつら全員強い能力を持ってるの! あなたたちがいくら強くても、敵わない!」
「おい」
シャム・アヴィスが私を強く睨みつけた。
「しばらく黙っていろ」
コボルトが現れると、咆哮を放った。
黒服達は身動きができなくなる。
「コボルト」
「な、なんだ。シャム・アヴィス」
「なるべくあの人を護ってくれ」
「…………承知した……」
コボルトは此方に来ると「調子が崩れる」と愚痴をこぼした。
「チィッ! なんとか動けるようになった者は〈精霊王〉の女を殺しに行け! あの女が死ねばコボルトは精霊界に帰る!」
「させないが」
びき、と床を破壊し三叉槍が突き出した、
それは黒服達の脚を突き刺し行動を不能にさせている。
傷口にナタリー・コルケットの障壁が発生する。
ナタリー・コルケットのライクであるらしい〈障壁〉は、「守護する」という観点から接着状態になる。
三叉槍と黒服達をくっつけて黒服達を無力化した。
「ヘルト」
「なんだ」
「俺が8発弾をぶち込む。お前6万8発そいつを殴れ」
「6万……仕方がないな」
シャム・アヴィスは2挺の拳銃を取り出した。
「シャムくん拳銃ふたつもってんの!?」
「逆にメイン武器がひとつだけな訳があるか」
「それもそうだけど……いままでボク達に隠してたのかァ」
「隠してはいない。言っていなかったのだ。言うタイミングがなかったからな。許せ、ナタリー」
「怒ってはいないけど」
装弾数8発の回転式拳銃。
篭め放しだったのか劣化した弾丸を床に落として、再装填。
ばきり、と腕に血管を浮かび上がらせてから、言う。
「死にたくなければ避けろよ」
──弾丸を?
乾いた音が8回。
ギリギリとセントリー・ハンカンが叫び出した。
シャム・アヴィスが治癒ポーションを浴びせかける。
すると、傷口が再生した。
「再生したらリセットだな。やり直しだ」
「嫌だ」
銃声は8回。
「いやだあ、いやだ、やめてくれ、死んでしまう」
「いいんじゃないか」
「いいわけない、いいわけないよう」
「いいんだよ」
治癒ポーションをかける。
「今度は俺だ」
ばきり、と腕に血管を浮かび上がらせて、引き絞る。
まるで見えない連続パンチ。
3秒にも渡るラッシュ攻撃にセントリー・ハンカンは泣くことすらしなくなった。
シャム・アヴィスは治癒ポーションを浴びせた。
「もう1回やろう」
「いやだ」
「やれ」
また3秒。
シャム・アヴィスは治癒ポーションを浴びせた。
「精神が壊れたか。ふむ。此処までにしておこう」
しばらくして、警官が突入してくると、ぼふんと蒸気あるいは煙がシャム・アヴィスの身体から吹き出した。
シャム・アヴィスは警官に何かを言ってから、此方を向いた。
「大丈夫ですか?」
「え、あ……あの……」
「どうしました?」
「なんでもないです……」
「そうですか。えっと、俺たちが泊まってる宿屋で娘さんが待ってますよ! 一緒に帰りましょ!」
「シャムくんちょっと、この建物直せるかい?」
「〝修復〟しろってことか? ナメないで欲しいね。〝修復〟は〈作成〉の第二段階だぜ」
「できないんだ」
「できるがー??」
「なんなんだこいつ……」
標の一団のみんなに主人公の〝打刻〟みたいな二つ名をつけるかどうかというくだらない悩みを抱いている。




