表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/56

トイレで見付けたもの

狼蛾の世界 豆知識

ひとつの魂が二つに分かれて二人の人間が生まれる事がある。同じ前世を共有する二人は類似する特徴をいくつか持っている。また、その現象を「ジェミニ現象」と言う。

 しかし、人生というのは上手く行かないものだ。

 例えばケーキ3等分にするときに均等に分けるには?

 例えば3人分の飯を均等に分けるには?

 そういう小さな失敗が積み重なることもある。

 俺はそういうの無いけど。

 でもまぁ、そういうのが無かったからこそなのかもな。


 俺は便所の中で死体を見つけていた。

 辺りは真っ赤に染まっていたが、ナタリーいわく下手くそだが血抜きがされているらしかった。


 隣にはナタリーが居て、「まじか」という顔をしている。

 すぐに近くの交番までヘルトが向かい、警官を連れてきた。

 現場検証やら聞き込みが始まった。


 俺たちは全員近くの宿屋に泊めさせられる事になる。

 泊まっているうちに、顔面蒼白の母親と娘を目撃した。

 多分あのご遺体のご遺族の方なのだろうな、と推察を飛ばす。

 俺たちは宿屋の食堂で会う度に切なく思った。


 何度かの聞き込みで、遺族と立ち会った。

 俺たちの読み通り、宿屋のあの親娘だった。

 しばらく警官の話を聞いて頷いていたら母親が急に「こいつらが殺したに違いない」と怒鳴って俺を掴み殴り掛かってきた。


「冒険者なんて社会のあぶれものなんだから人くらい簡単に殺せるはずよね! ね! そうでしょ、あんたらみんな異常者の集団なんだからね。どうせそういう何食わぬ顔で殺したの。返して、返して、旦那を返して」

「落ち着いてください! 彼らと貴方の旦那様に接点は無い!」

「…………」


 この日はこれ以上は駄目だ、というので警察署から放り出されるという結果になった。

 ああいうフウになってしまうのは仕方の無いことだ。

 きっと本当に愛しているのだから、仕方の無いこと。


「すいません、あの人達にもっといい宿屋を紹介して差し上げて貰えませんか。私どもと同じ宿屋を使っていて、心身の疲労が心配だ」


 俺がそう言うと、警察はすぐに手配してくれた。

 その夜、宿屋にあの親娘はいなかった。


 次の日、俺たちはまたあの共同トイレに向かった。

 警官を引き連れて。


「やっぱり……」


 地面に鼻を擦り付けて、臭いを嗅ぐ。

 血の臭いが付着している。あのご遺体の臭いと合致する。

 あのご遺体が着用していた衣類に付着していた血の臭いを警察犬が記憶して、俺が見付けた血の臭いを頼りに追っていく。

 警察犬は、おそらく、きっと、順調に追っている。

 血の臭いを追っている。


「おい」


 ヘルトが俺に言う。


「何か隠していないか」

「言ってないだけだよ」

「ならば言え」


 警官が俺を睨んでいた。


「初めてご遺体を発見した時、あの便所、血に混じって他の臭いもしてたんだ」

「他の臭い?」


 警官のひとりが少し口調を強めた。


「彼は万象圧縮記憶法を使うんだ。それのトリガーに嗅覚を使っているから、鼻がとても利くんだ」


 ナタリーが言う。


「これ、言っちゃ駄目だと思うんだ。きっと誰かを傷つけるから、言っちゃ駄目なんだ。多分、駄目なんだ」

「言いなさい」

「あの時、あの便所……あの奥さんの臭いもしてた」


 警察犬は俺たちが泊まっていた宿屋の前で泊まった。


「きっとあの奥さんは、何らかの事情で俺たちより先にご遺体を発見してしまっていたんだと思う。けど、受け入れられなくて──」


 宿屋の受付のところに、娘さんがいた。


「ねぇ君、どうしてここにいるの?」


 ジャネタさんが声をかけに行った。


「お母さんが何処にもいないの。だから、探してるの」

「お母さんが?」


 ジャネタさんが俺を見て、険しい顔をした。


「血の臭いがする……ねぇお嬢ちゃん。お嬢ちゃんの荷物、見せてもらえないかな」

「いい、けど、どうして?」

「お母さんがもしかしたら、いなくなる前にお嬢ちゃんになにかを持たせているかも! だから、それを探すんだ。そしたら、お母さんを一緒に探してあげられるかもしれない。ねっ、いいだろ?」


 娘さんは頷いて、持っていた小さなうさぎの絵が描かれた鞄を俺に渡してくれた。

 食堂で警官達と荷物を広げる。

 すると、小さな袋の中に血のついた手袋が入っていた。

 警察犬がその臭いを記憶して、追いはじめるが、途中で立ち止まる。

 もう1匹の警察犬もまた同様に別の場所で立ち止まった。


「血はあるはずだが、臭いが無いか」

「血はある……? どういうことだい、シャムくん」


 血液を使い鉄製の矢印を作り出した。材料さえあればアイテムを作成できる〈クラフト〉の能力の使い所だ。


「これは、俺にとって都合が良すぎるな」

「お前が〈クラフト〉を持っていることを奥さんが知っていたと……そう言いたいらしいな」


 ヘルトが言う。


「クラフトする際、近くに同様の『クラフト材料』がある際、その存在を感知できる。これは〈作成〉も同じ。だから、俺にはわかった」


 あのご遺体は血抜きがされていた。その血は何処に?


「矢印を作っていこう」


 矢印の道はひとつの山を通る。

 その山をまた通り、複雑な道筋をたどり、建物の前に立つ。

 その建物にはミリニオ教の紋章が掲げられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ