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優しい隣人さん!

 そうして思い思いに踊っていると、怪しい気配を感じる。男が近づいてきた。後ろには黒服の集団。ヘルトも怪しい気配を感じ取っていたらしく、立ち上がってまたしゃがみ込んだ。


「やーやー、やけに楽しそうではありませんか! いいですね、蛾という虫は踊るもの。踊っているのは良いことだ。それがルールだ」

「誰だ、あなた達は」


 兄が尋ねる。


「おやっ! 貴方はラム・アヴィス様ではありませんか! お身体の様子はどうですか? んーあんまりよろしくないご様子! やっぱり一滴でも血を流したら死んでしまいますか?」

「あなた達は誰か、と」

「質問に答えてくださいよ」


 ぴしゅしゅ、という音があってから男が剣を抜いていることに気がつく。


「子供達に手を出すな!」

「子供達に、ですか。子供達ね。子供達には興味ね、ないんですな。それに標的ではない。私はデコネのイカレジジイと違いね、標的以外の人間は斬らないんですよ。ほら、憶えてますでしょ。〝堕告〟のデコネ。エヘエヘエヘ、私ね、あのジジイの仲間なんですよ。わかりますよね、シャム・アヴィス」

「……」


 懐からハジキを出した。


「何も言わずに殺意すらも出さない! なのに確実に殺そうとしてて凄いですね! 貴方は殺意を隠すのがお上手! やっぱりヴァットの息子なんだなあ……だとすればさ! だとすれば、私が言いたいこととかわかりますよね! わかってくれる筈なんですよね! あなたも! ラム・アヴィスも、ヴァット・アヴィスの息子なんだもんね! わかりますよね!」


 男は笑いながら走り出した。ヘルトが飛びかかるが、男の蹴りに吹き飛ばされた。


「ヘルト!」

「心配すべきは彼ではなく貴方の兄ですよ!」


 ヘルトが力負けした!? あのパワー特化のヘルトが!?


「オラッ!」


 男は兄の腹を蹴った。次の瞬間、おかしな事が起こった。足から血があふれたのだ。兄は蹴られた衝撃で後ろには倒れる。


 うまく説明できないから、率直に言えば、脚は切断されていた。いつだ!? いつ斬った!? 動作はなかった。いつの間に!? ……あの際だっ! 剣を抜いた時っ! 抜剣にしては音がおかしかった!


「兄ちゃん!?」

「貴方にね! 忠告しに来たんですよ! シャム・アヴィス! ミリニオ教の計画はね! 人に言っちゃいけないんですよ! あのね! 言うと処刑されてしまうんだ! アッ! 自己紹介がまだでしたね! 私ね! 私、〝泥影〟のミレニアム・ディスコといいます! よろしくお願いします! 身に受けたライクは〈泥形〉おいい、その形を、その姿を! 自由に変えることが出来ます」


 子供達を見れば、怯えている。当たり前だ! 信頼している大好きな先生が襲われた! こんな異常な奴に!


「今回は貴方にね、忠告しに来たんですよ。こんなね、こんな実演なんかして」

「忠告だァ? なんだい、近くに強盗団でも引っ越してきたかい。優しい隣人さんだ」

「これ以上我々ミリニオ派に関わるのなら、貴方の大切な人をこうして殺していく。おそらく貴方のような性格の人間は我々にけちを付ける! 旅をやめて! 旅を! ほら! ラム・アヴィス! 貴方も弟さんにひとつ言ってみてわ」


 兄が口を動かす。駆け寄って、口に耳を近づける。


「諦めろ」

「なんだい、なんだい、兄ちゃん……それはどういう……」

「冒険の旅はもう辞めるんだ、お前が不幸になるだけだ」

「兄ちゃんの夢じゃないか……」

「違う」

「違くないっ!」

「俺はもう、諦める」


 ぴしっ、と卵の殻が割れるような音が頭の中で響く。


「お前は絶対に苦しむ人々を見逃さない。孤独に耐えかねる人々に、居場所を与えようと生きはじめる……お前がこれから旅をすれば、お前は孤独になっていく。お前はそれに耐えてしまう。心が強いから、耐えれてしまう……なら、もう、諦める」

「兄ちゃんが諦めたら」


 俺が旅をする理由もなくなる。


「俺が」


 俺が旅をする理由もなくなる。


「俺が旅を……」


 俺が旅をする理由も。


「だから、諦めろ。お兄ちゃん命令だ」


 ばきり、と額に青筋が浮かんだ。


「わかった。夢は諦める」


 ナタリーが俺の名を小さく叫んだ。怒っている様だった。


「それでいい! 賢い兄弟で良かった! 身体の弱い兄を気遣う弟! うん! 傑作だヮ! でもね、シャム・アヴィス! 貴方の兄には此処で死んでもらう」

「死なせないさ。バカヤロー」



 〝第三段階使うべし〟



「貴方! 他人に向かってバカとはなんだ! 何様のつもりですか!」

「何様かって? 何様……何様かぁ……知らんなァ……」


 夢は潰えた。夢は潰えた。夢は潰えた。夢は。夢は。夢。


「それはお前がその身で知れば良いさ」

「偉そうに! 決めましたよ! 処罰の対象! 子供達ィ!」

「たった今! 夢は潰えた! もう追えない!」


 ミレニアム・ディスコが肩を跳ねらせる。


「しかし! 兄ではなく! 誰でもなく! この俺が! 夢を抱いた! ならば! もう! 止まらない! 止まれない! 止まり方など教わらなかった! ならば俺はこの腕で! この脚で! 命を削って生き続ける!」

「うううう! うるさい人ですねぇ!」

「夢を生きればドンと立つ! 邪魔をされても立ち続け! 炎が燃えれば、陽が昇る! 気合いと根性! 度胸と愛情! 苦悩苦痛も撃ち捨てて! てっぺん昇りゃア陽が笑う! 夢を抱いたのは兄じゃない……夢を終わらせるのはお前でも兄でもない! それは俺だ! 俺だけが夢の恋人だ!」


 両手を打ち合わせる。パァンと鳴るのは当たり前。


「〈クラフト〉──自我強固──〈クラフト〉第三段階」


 マルスが「えっ」と呟く。


「皆の衆! あの男を撃ち殺せ! 覚醒が終わる前に!」

「──〝モード3〟」


 弾丸はすべて俺ではなく、俺の背後の壁に突き刺さる。


「なにっ……!?」


 地に沈む。息は苦しくない。すべてが見通せる。


「お前が俺を鬱陶しく想うのも……お前が俺の宝に傷を付けるのも……全部全部やかましい! やかましすぎて片腹痛し! なら! やるだろ! 相互作用の排除……!」


 オブジェクトに干渉することなく、現象はすべて透過して、すべてを見通す観覧者。名付けるのなら……名付けるのなら!


「名付けるのなら、〈スペクテイター〉……俺はもう、お前如きじゃ触れることすら出来ねェよ」


 見下して、言い放つ。


「さっきまでの台詞、全部正しく言い直せ。凡人類」

クラフト

┣アドベンチャー[非戦闘対象へのあらゆる攻撃を無効化]

┣スペクテイター[戦闘対象との相互作用の排除]

┗??????[??????]

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