そして翌日
決意を燃え上がらせて、燃やしすぎた結果、燃えたまま冒険者ギルドに向かい、暗いうちからパーティ設立の申請をしてしまったので受付のメリイさんをだいぶ困らせてしまった。とてつもなく悪いことをしてしまったなあ、と思いながら初老のギルド職員さんが掲示板に設立を知らせる紙を張り出した。
「〝標の一団〟……かっこつけちゃったな。」
好物の栗を名前に入れてのほほんとしたパーティだよ、というのを全面に押し出そうとした結果〝栗〟にスペルが近い〝標〟を書いてしまい、それに気づいたのは受理された後。
なんで栗と標のスペルが近しいんだよ、と毒づいてももう遅い。受理されたからね。パーティの名前は最低でも二週間しないと変えられないらしい。
オイ! 二週間もしたら〝標の一団〟が周りに定着されちゃうわよ!
「なんだこれ! しるしのいちだん!?」
「だっせー名前!」
「パーティリーダーは……シャム・アヴィス……?」
「これさっき酒場で〝英雄の夜明け〟からクビ宣告されてた奴じゃね?」
「あっ! あれかぁ!」
は、恥ずかしい! ものすごく!
「クビにされてから1時間も経たずにパーティ設立……?」
「ムーヴが恥ずかしいだろ」
それはまぁ……〝はい〟……ものすごく〝はい〟……!
そうして俺は真っ赤に染まった顔を隠しながら宿屋に帰った。
翌日、俺は昨日の事を思いだし、燃えかすになった決意を恨んだ。なんであんな急に「やったるか!」という気持ちを抱いてしまったんだろう。やってしまった結果〝標の一団〟だというのに。
あのパーティ設立……取り消せねェかなぁ!? あと3週間くらいしたらちゃんと〝栗の一団〟作り直すからさ! めちゃくちゃのほほんとしたパーティを作り直すからさ! 取り消せねェかなぁ!?
「取り消せないですね」
ギルドにて、メリイさんに言われてしまったので諦めることにしよう。
「うーん……すいません、3週間くらい姿をくらませられるクエストとかないですか?」
「え? うーん、アヴィスさんはFランクですからね……どうだったかなあ……いま探して来ますね」
今日はあらかじめ犬の着ぐるみを着てきたので真っ赤に染まった顔はバレていないハズ。
「よっ、シャムさん! なにやってんの」
なんでバレてんの?
見てみれば、1年後輩のアデルモだった。チンピラみたいで苦手な奴……! よりにもよって……!?
「おーい、シャムさーん。おーい。……おい!」
「ツア!? ハイ!? アテクシノ事デスカ!? アテクシ、シャムナンテ名前ジャナイデスヨ!」
どうだ、鍛えに鍛えた裏声だ。
「背中に背負ってる子牛ナンちゃんだろ」
「アル男ニ『コノ子牛ヲオ前ニ預ケル』ト言ワレテイルノデス!」
「うむ……獣人のえっちなところTOP3は?」
「3位『瞳が宝石みたいでえっち』なところ。2位『脚の肉球が硬い』ところ。1位『局部の毛並みと全身の毛並みに境目がない』ところ」
「やっぱシャムさんじゃん」
「違イマスワヨ!! ナンデスカ貴方! 警察呼ビマスヨ!」
「獣人の好きな毛色とその理由は?」
「黒。白が映えるから」
「きっっ……ほら! やっぱシャムさんじゃん」
なんなんこいつ死ねや。
「なんで着ぐるみ着てんの」
「なんで話しかけるの」
「シャムさんが変なことをしてると絶対楽しい事が起こってるじゃん」
「俺は楽しいことなんかしてない。真面目に仕事をしようとしていたところだ。肴のアテが外れたね。かわいそ。未成年飲酒やめてね」
「なんだっけ、故郷で初恋の獣人に煙草勧められて、かっこつけたくて吸おうとして、前髪を燃やして3ヶ月くらい前髪ハゲだったんだっけ?」
「おいキサマ!! 何故それを!?」
アデルモが指をさした。
そこには黒いオオカミ獣人がいた。こちらに手を振ってる
「パール……!? 嘘だろ……!?」
「俺、いまあの人のパーティにいんの。『初恋の獣人』なんだろ。俺そもそもあんたのことあの人に教えてもらったんだよね」
「……なぜあいつは俺をわかったんだろう……?」
「『私の視界の中で変な事してるやつは9割シャムだよ』って言ってたよ」
そんなことないと思うが……。
「ちなみにパールさんの好きな男いるらしいよ」
「やめろ。言うな」
「曰く『面白くて優しくて情熱に満ちあふれた人』だって」
「勝ち目がなくない……?」
俺は面白いことしたことないし優しくもないし特に情熱に満ちてるわけでもないし。胸が締め付けられるくらい痛い……初恋の痛みが……封印していたハズの恋の痛みが……!
「そういえば『なんで村から出てったの』って話してたよ。お話して来たら? 申請は俺しとくから」
「断る。いまは無理過ぎる」
「女にばかり我慢させるなんて嫌な男だね」
「じゃあお前、『世界中の朝日が見たいから』ってだけの理由で親にすら何も言わずに『世界に行って来る』って村の門に大書した過去がまだあるのに、いまこんなことになってるクソみたいな幼馴染を見たときのパールの気持ち察しろよ。笑うか泣くだろ。そんで普通に俺が恥ずかしいよ」
「笑うと思うよ。あの人あんたの言動は全部笑って受け止めてるし」
「は!? パールそんなに都合のいい女じゃねーし! ナメんなカス!! 死なすぞ!!」
と、そこにメリイさんが帰ってくる。
「ありました! ありましたよ! カルクス村のお屋敷の護衛1ヶ月です!」
「それ受けます!! 行ってきます!」
「あ! ずるいんだシャムさん! 過去から逃げるな!」
黙れ! 俺はもう立ち向かうのは嫌なんだ! 好きなことをして生きていきたいんだ! いつまでも現実なんか見てられるか! 俺は夢に篭るね! 魂を削ってでも! 夢だけを見るね……! じゃあね!