俺は泣いた
タールミナトに帰ってきた。
「ミナチの実なかったんすよ」
「えーっ! それはそれは」
「薬草採取してきたんすよ」
「えーっ! それはそれは」
薬草採取クエストの報酬をゲット。
「そちらの方は?」
「冒険者登録に来た。登録させてほしい」
「出来る?」
「可能ですよ」
感謝感謝っつーわけで、冒険者になったヘルトが〝標の一団〟に加入した。
「ふむ。冒険者というのはつまるところ派遣労働者という様なものか」
「最初のうちはね。後々冒険出来るようになる。後々冒険出来るようになると、なんとガチで楽しい」
「それまでの辛抱といったところか」
ふむ、とヘルトが言う。ふむふむうるせェ奴だぜ……。
そうしていると、そこに大柄の冒険者が二人やってくる。
「てめぇ、シャム・アヴィスだな? 喧嘩場じゃめっきり姿を見ねェから心配してたんだぜ? 死んじまったんじゃねェかってよ」
「こいつ良い女連れてるぜ」
「俺達と遊ぼうや」
喧嘩場の連中か。うーんどうしたものか……。俺は喧嘩が弱いんだ。ハジキ使っちゃいけないから。
「好みじゃないです」
「知能が低そうだからパスするよ。うちの男連中を貸してあげるからそれで発散なさい」
「男なんか抱いてなにが楽しいんだ? ア?」
「男の良さもわからん低知能社会不適合者め。話しかけるな」
「生意気言ってるところを『教えてやる』のが燃えるんだぜ……!?」
「へェそうかい。ダニならずっと生意気だぜお嬢さん」
喧嘩を売るんだもんなあ、ナタリーは。
まぁしょうがない。ここは俺の覚醒したライク──〈クラフト 第二段階 アドベンチャーモード〉で相手をしてやろう。
昨日の夜中に実はヘルトに「〈クラフト 第二段階 アドベンチャーモード〉は長いしなんだかダサいから〈アドベンチャー〉でキッチリ閉めろ」と言われてしまった〈クラフト 第二段階 アドベンチャーモード〉で相手をしてやる。
びっくりするなよ、俺の〈クラフト 第二段階 アドベンチャーモード〉があんまりにも反則級の能力だからって。〈クラフト 第二段階 アドベンチャーモード〉が反則級だからって後悔するなよ。〈クラフト 第二段階 アドベンチャーモード〉がヤバすぎるからって。〈クラフト 第二段階 アドベンチャーモード〉がヤバすぎるからって後悔するなよ。〈クラフト 第二段階 アドベンチャーモード〉がヤバすぎるからって後悔するなよ。後悔するなよ。ヤバすぎるからって。
「あとは頼むよ。行こう。ナンちゃん、ドナちゃん」
「しょうがないなあ……」
「しょうがない!? しょうがないって、するとテメェが俺達の相手をしてくれるってのか!? 喧嘩場最弱〝打刻〟のアヴィスくんよォ! えェっ!?」
ハジキを出して脚と肩を撃つ。
「………………………………は?」
「ぎゃああああ! いてえええええ! いてえええええ!」
「ダメだったか?」
ヘルトは「ダメではないだろ」とため息混じりに言う。
「喧嘩場というのがどういう物かは知らないが、少なくともここは喧嘩場ではないんだろう。ならばこれは『喧嘩』ではない。命の奪い合いだ」
脅し撃ちだけどね。
「ぶっ殺してやる!」
「宣言したぞ、殺すって」
「俺も殺すしかなくなる……そのためにハジキに手を出したんだ……死にたくなきゃ避けてくれよ今のお前ら……的に見えるぞ」
脅し撃ちだけどね。
「俺の決めゼリフを……!」
「ふたりの決めゼリフにしよう」
ざわめきに満ち始める。
「殺し合いか! 誰と誰だ!?」
「〝打刻〟知らねェ黒髪黒目のコンビ! 対するは! グレビスとダグビスの兄弟!」
「マジか! 喧嘩場で7人殺していま指名手配の筈じゃ!?」
「ギャハハ! やっちまえ! アヴィィィィス!」
殺す流れだ……脅し撃ちなのに。
「どうしよ」
「やれるところまでやって後は逃げよう」
「それがイチバンか」
「死ねェェっ! 兄弟の仇ィっ!」
推定グレビスが大きな斧を振りかざしてきた。
ナタリーの指パッチンが遠くから響くとパキンという音がして斧が弾かれ天井に突き刺さる。
「悪いね。青髪の〈障壁〉だ」
「俺の戦闘力は1万だぞ……斧には『戦闘力+1万』のエンチャントが施されていた! 合計2万の攻撃をたった1枚の障壁で……!? どんな反則を使った!」
「俺に聞かれても困る」
ヘルトはそう言うと踏み込み、ばきりと音がする程に血管を浮かび上がらせた腕を引き絞り、推定グレビスを殴り飛ばした。
「ひーっ! 今のパンチはなに!」
「わからん、ただのパンチだ」
「戦闘力どんくらいなんだよお前」
「見えんから知らん」
推定ダグビスが起き上がり、掌に稲妻を発生させ、こちらに放ってきた。これじゃ他の冒険者が巻き込まれる。
「第二段階……ッ!」
「あァ!?」
「〈アドベンチャーモード〉」
稲妻は他の冒険者に当たるとパキン! という音と共に弾けて消えた。
「モードはいらん。〈アドベンチャー〉だ」
「しつけェ! じゃあもう〈アドベンチャー〉だ!」
「折れるのが早い。乾麺かお前」
最初から展開しておくんだった。
「いまのは俺の覚醒した能力だ! こいつらの攻撃も俺達の攻撃もあんたらには無効化される!」
「ウウウ、ウウ! ウウウウウ! 死ね! 死ね! 死ね!」
「蹴り飛ばすが構わんか」
ヘルトが俺に言う。
俺は肩を竦めて「さあ」と言った。
ヘルトは推定ダグビスをゴムまりよりも簡単に蹴ってみせると「案外軽いんだな」と言った。
非能力者でそこまで強いのはもう嘘みたいなすぎるだろ。
「一応、殺してはいない」
というところで、どうやら戦いは終わったらしく冒険者達がわらわらと群がってきた。主にヘルトに。ヘルトはもみくちゃにされていて軽く恐怖。
「獣人の冒険者来い……」
「お前俺らが触ると触り返そうとして来てキショいから無理!」
「何故……!!」
「お前のボディタッチ一切の迷いなく生殖器なんだもん……」
「俺のも触らせてあげるから」
「キショいっつってんだ」
俺は泣いた。
現実の動物に発情する異常性癖者にだけはなりたくないもんですな。




