兄の思い
薬草採取のクエストを終えて報酬の5万8000タータを受け取った後、次なるクエストを探していると股下に青髪が現れた。
「なにしてんだあんた」
「今日からボクも〝標の一団〟に入ることになったからね」
「マジ……?」
イヤすぎる。
冷や汗を背中に滲ませる俺に反してドナさんは嬉しそうにしていた。
「もしかして『いなくなったな』と思ってたけど、あんた……もしかして、もしかしてあんた、冒険者登録してたの?」
「それ以外に冒険者でもない美少女がこんなむさ苦しいところに来ると思うかい?」
「だとしてもなんでまた俺のパーティなんだ」
「ラムが君を心配していてね。君、ラムにリバティリング渡してないだろ。彼、リバティリングの存在を1ミリも知らなかったぞ」
俺はさすがにその部分を言い返せるような気がしなくて、押し黙った。
「これから婚姻を結ぶとなると君はボクの義理の弟。ボクは君の義姉だ。心配するラムの気持ちを考慮に入れた場合、ボクは君についていって君の行動を月一あるいは週一で彼に報告する義務がある。あえてコメディで近付いてやったけどね、ボクは君に怒ってるんだぜ。彼の心配を余所に、顔のひとつも見せてやらないで、彼が君の生存を確認する手段は毎月孤児院と学校に入ってくる20万ずつの大金だけ! 唯一の肉親なんだから、ちゃんと向き合いなさい!」
……。
「兄さんを、俺の『唯一の肉親』なんてものにした原因を作ったのは、俺だぜ。いまさら何て言って会えばいいんだ」
ドナさんはムッとした顔をした。いまの俺の言葉は、さすがにドナさん的には嫌だったか。
「いまさら向き合えなんて、誰も幸せになれねェよ」
「ラムは『何処かで会えたら伝えてくれ』とボクに言ったよ」
「なにを」
「『腹空かすなよ』ってさ」
兄はそういう人だった。俺にはない物──優しさ──を持つ人だった。俺はいつも兄に庇われていて、弱虫だった俺を、兄はいつも護ってくれていた。だけど兄は病弱で、村から出ることが叶わなかった。
兄はある日俺に言った。「世界一綺麗な朝日って何処にあるのかな」って。だから俺は世界中を旅して回って、世界一綺麗な朝日を見つけたいと思った。いままで護ってくれた兄への恩返しのつもりだった。
結果的に、家族を奪って。唯一残った家族は、こんなクソみたいな弟とか、情けない。いまさら「弟」の格好なんか出来やしない。
「『気をつける』って伝えておいて」
「自分で伝え……ろ!」
ナタリーは思い切り頭をあげた。そのため、睾丸に──圧ッッッ!!
「なはは! 女になったかいシャムくん!」
「この……ボケがッッ! 男がキンタマ失ったところで……タマナシの男にしかなれねェよ……! このッッッ、クソボケッッ!」
「キレてて面白い」
こいつ……!
本当にこいつ……! 義弟のキンタマ潰してテメェの夫に良い顔出来る訳ねェだろ化け物みてェな矛盾振りかざしやがってクソッタレ……!
「面白くない……!」
「キンタマが潰れてたらどうする?」
「全力であんたから逃げるが……!?」
「ボクは天才だからね、逃げきれる訳がないなあ。君のような猿の思考なんてお見通しさ」
ナタリーは自慢げに言った。
「天才万能学者なんて馬鹿みたいな良い方してる奴が天才とは思えない」
「猿にもわかる共通語だからね」
「だから使えたのか?」
「零れた脳汁でふやけてしわしわになった脳味噌でもわかる言葉をね」
「でも『使える』と『伝えられる』の違いもわからないつるぴか脳味噌の割には賢そうだよな動物園を首席で卒園か?」
「そういう君の出身は水族館? 脳味噌どころか玉袋もしわしわだ」
「張っ倒すぞ」
「やってみなよ」
睨み合う。
不毛過ぎるな、と気付いた頃には俺の顔面はぼこぼこになっていた。
「いままで喧嘩をしたことがない学者にも負ける冒険者がいるってマジ?」
「なんか途中から強くなるあんたが悪い。俺の攻撃は通らねェし」
「君の能力はなんだか様子がおかしいな」
「うるせーばーかばーかあほまぬけ」
「共通語の罵倒語を知らないのはシャムくんらしくて良いと思うけどね」
前かいた奴(チートスキル【学習能力】のやつ)と同じノリ(口喧嘩)だ!
と思って前かいた奴読んで来たんですけど、めっちゃキツかったです(笑)




