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追放

 人は10歳になると魂の接続により〈ライク〉という特殊能力を得る。

 魂が本能的に()()になった物に魂が形を変える。

 視細胞には魔力が宿り、己の戦闘力の可視化が可能になる。

 人はこれを「覚醒」と呼んでいる。



 ◆



「アヴィス、お前はクビだ」


 そんなことを言われたのは生まれてはじめてだった。


 それもそうだ。


 生まれてはじめて所属した──というより働いた職場なのだから。


 それは突然のことだった、とも言い難い。


 何と言えばいいのだろうか、取り敢えず「兆候はあった」と思う。なんか俺のこと鬱陶しそうにしてたし。多分子牛の魔獣を拾った辺りで「こいつダメだわ」みたいに思われたのだろう。


 お荷物がお荷物抱えたら大荷物だろうが。


「何故、だか聞いてもいいか……?」

「何故!? 何故だとテメェ! 聞かなくてもわかるだろうが!? テメェの能力だよ!! テメェのその〈クラフト〉っつー能力で作ったアイテムの質が悪いのなんの! その所為で誰が痛い目を見るんだ!? アァ!?」


 リーダーのマーカス・イド・フレッグスが苛立ちを隠しきれないというか、もう苛立っていることを全面に押し出しながら吠えた。マーカスは普段からキレやすい人だが、今日は余計にキレている。きっと俺が作った治癒ポーションの出来が悪かったからだろう。


「テメェをパーティに入れたのは何のためだ!? アァ!? 言ってみろ!」


 そこは酒場で、そこには他のパーティメンバー、弓士イリス……剣士ゴードン……魔術師ハルカもいて、全員がじぃっと此方を向いて来る。


「仲間だ」

「そうだよ! わかってんじゃねぇか脳足りんの癖に」

「しかしそれは、いつも言っているように」


 反論しようとすると、マーカスは胸倉を掴んできて、俺を投げた。テーブルの上を転がって、ゴードンの横に落ちた。


「反論か!? 言い訳か!? 聞きたくねェよボケッ! 結果だろうが……『テメェの〈クラフト〉が使えねェー外れ能力(ライク)だった』ッッ! それだけだろうが! 反論の余地もねェ! テメェの失敗! わざわざ治癒ポーションの材料を集めてやればクソみてェなもんつくりやがって!」


 マーカスはひと跳びで俺のそばまでやってくると、腹を蹴ってきた。


「クソッ! クソッ! 蹴っても蹴り足りねェな!」

「確かに……俺の……『ミス』だった。けど、何度も言うが俺は……」

「黙れェ!」


 首を掴まれて、酒場から投げ出された。


「新しい作成師は雇った! テメェにゃ用はねェ! しね!」


 全身にひろがる痛みに苦悶の表情を浮かべながら立ち上がる。


「人の話も聞かないムキムキウンコの毛むくじゃらめ……」


 腹を見てみれば、痣になっていた。


 溜め息をつく。

 反論の余地を残していてくれなかったな。


 それじゃあ俺の〈クラフト〉という能力について説明しよう。


 この〈クラフト〉という能力は、「素材を用意すれば過程を省いて作りたい物を完成させることができる」という能力で要は、簡単に言うと、つまり、「簡単にアイテムがつくれるよ!」というもの。


 そんで、重要な点として、俺の〈クラフト〉はそもそも「複数個同時作成」が出来ないライクだ、という所が挙げられる。無理に複数個同時作成なんて行ってしまえば、普段を「星5つ」だとすると、「星1つ」のアイテムしか作れなくなる。限界突破は厳禁だからね。


 んで、それは何度もマーカスには説明していた。それでも強引にやらされる。給料をもらっている手前逆らうわけにはいかない。なるべく全力で質を上げようと努力してみたがいつも星1つレベルのアイテムしか完成しない。


 彼が執拗に「複数個同時作成」を強いていたのは、おそらく〈作成〉の能力概要に引っ張られているんだろう。そして、〈作成〉というライクは「素材を用意すれば過程を省いて作りたい物を完成させることができる」という能力で要は、簡単に言うと、つまり、「簡単にアイテムがつくれるよ!」というもの。


 おんなじ。


 あの〈クラフト〉というライクは名前が変わっただけで〈作成〉とおんなじ。

 マーカスはきっと考えた。

 あるいは「かっこつけて言い方を変えているだけ」とかかな。


 本当に別物で、故郷でも何度も調べてみたけど、「ライクの名前は〈クラフト〉ですね」という結果に終わった。


 みんな〈作成〉と同じ能力なのに違う名前の〈クラフト〉を不思議に思っていたが、兄のラムの「どうでもよくね?」の一声で鎮まっていった。


 何度も何度も何度も何度もアイテム作成の度に説明していたのに頑なに聞き入れないばかりか、今回の追放。


 マーカスのいつも上に向かおうとする姿勢がとても好きでこの世で一番尊敬している人間だったけど……すこし嫌いになってしまったな。


「どうしようかな……」


 冒険者パーティを追い出された。こんな情報は冒険者界隈じゃアッという間に広まっていく。もう何処にも入れてもらえないだろう。


 しかし俺は冒険が好きだ。できることなら冒険者としていろいろな遺産を調査したり、魔獣と戦っていきたい。というより、各地の綺麗な風景を見ていきたい。


 となると……作るしかないか。新しくパーティを。


 冒険者はパーティに所属しなければ遺跡調査やら冒険やらなど出来やしない。個人活動は何よりも危険だ。遭難した場合や急なトラブルが発生した場合ひとりで行動する事よりも危ないことはない。


 だからパーティを作れば新人冒険者くらいなら入ってくれるかもしれない。でも抜けられるかもな。ある程度育ったら。


 …………。


「モォ」

「うわ! ナンちゃん」


 ナンちゃんというのは先ほどチラッと言っていた子牛の魔獣の事。俺の従魔だ。名前の由来は、ナンプスという草原で拾ったから。


「モォ」

「……そうだな、迷ってる時間が勿体無い。行こうか」

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