選抜試験④
筆記試験、身体測定を無事に終えた。
昼食をはさんで午後になる。
午後からはいよいよ、実技試験になる。
その前に――
「実技試験への通過者を発表します」
筆記試験を受けた会場に戻り、試験官から報告を受ける。
お昼休みの間に筆記試験と身体測定の結果が統合され、合否判定が下される。
この時点で基準に満たない者は、実技試験を受けることすらできない。
例年通りなら、ここで半数近くが脱落する。
順番に呼ばれた。
そして、私の番号も無事に呼ばれて一安心。
落ちるとは思わなかったけど、実際に通過するまではドキドキだった。
妨害もあるが、今のところ順調だ。
「さぁ……ここからだね」
私の実力を、騎士としての姿をアピールする。
きっと午後からは護衛対象である第一王子もお見えになるはずだ。
しっかりアピールして、私を選んでもらおう。
◇◇◇
実技試験は野外訓練場で実施される。
午後になって一気に人が減った。
不合格となったものは、すでに会場から出て行ってしまっている。
厳しい世界だから仕方がない。
みんな、いろんな思いを胸にここにきている。
中に私のように、どうしても合格したい人だっているだろう。
たとえ誰が相手でも、私は負けるわけにはいかない。
実技試験は文字通りの模擬戦。
受験者同士が戦い、その内容で点数が付けられる。
模擬戦は一人五回。
相手はランダムに決められる。
またしても運命のいたずらか。
それとも仕組まれたのか……。
「運よく生き残りやがったみたいだな。落ちこぼれ」
「……」
相手は、意地悪してきた貴族の一人。
私の肩にぶつかってきた男だ。
「他の二人がいなくなってしまいましたね? どうしたのでしょうか?」
「てめぇ……」
「怖い顔をしないでください。これは試験です。ルールを破れば退場になるのは当然です」
「チッ、へましやがって」
小声でぼやいたのが聞こえた。
やはり嫌がらせは彼の指示だったようだ。
おそらく三人の中でも明確に優劣があり、彼がトップだ。
家柄か、それとも実力か。
どちらにしても、この試験で個人的な最後の障害になりそうだ。
「感謝しないといけませんね」
「は?」
「あなたが模擬戦の相手に選ばれたことです。ここでは貴族も平民も関係ありません。見られるのは実力だけ……なら、一方的に勝ってもとがめられませんから」
「――! なめてんじゃねーぞ。落ちこぼれの、女の分際で!」
とことん私のことが気にいらないらしい。
彼は眉間にしわを寄せ、私のことをギロっと睨んだ。
貴族の中には位に執着する者もいれば、性別で差別意識を持つ者もいる。
彼はその典型だ。
しかしこの場で評価されるのは、位でも性別でもなく、実力のみ。
こんな絶好の機会はないだろう。
私やブレイブ家を馬鹿にした相手を、心置きなく叩き潰しても、誰も私をとがめられない。
これは試験関係なく、やる気が出る。
「それでは試験を始めます。ルールは相手が降参を認める。もしくは戦闘不能になるまで続けます。魔法の使用も許可しますが、相手を必要以上に痛めつけたり、周囲に被害が及ぶものは使用禁止です。ルール違反が見られた場合は、即刻退場処分となります。よろしいですか?」
「はい!」
「構いません」
「では、始――」
「これは一体何のつもりだ?」
「「――!?」」
ついに戦いが始まる。
という所で、場の空気が変わった。
それも当然だろう。
いっさい会場に姿を見せることがなかった人物が、ついにその姿を現した。
私たちが目指す場所。
騎士として守るべきお相手――
グラニカ王国第一王子、ラインハルト・グランツ殿下。
輝かしい金色と赤の髪。
オレンジ色の透き通る瞳は、太陽を思わせる。
こんなに近くで見るのは初めてだ。
王族としての貫禄と、どこか懐かしさのようなものを感じた。
「何だこれは?」
「で、殿下!」
「主催はお前か?」
「は、はい」
実技試験を見に来られたのかと思ったが、どうやら様子がおかしい。
初めに挨拶をした貴族の男性が、青ざめた顔で殿下と話している。
殿下は明らかに不機嫌だった。
「ふざけているのか? 俺の護衛選抜だと? 誰が許可した?」
「へ、陛下には許可を頂いております」
「父上か。だが俺の護衛だろう? ならばなぜ、俺には話を通さない?」
(どういうこと?)
殿下はこの試験のことを知らなかった?
そんなことがありえるのか?
これは殿下の護衛を決めるための試験なのに……。
場に不穏な空気が漂う。
「そもそも! 俺に護衛など必要ない。いつも言っているだろう?」
「し、しかし殿下! 殿下の身に何かあれば、この国の未来が」
「馬鹿か貴様は? 俺より弱い護衛をつけて何の意味がある? ただの足手まといを増やして、何の価値がある?」
「そ、それは……」
貴族の男性は殿下に怒られ、しぼんでいる。
殿下は護衛を求めていない。
この試験も、殿下の許可なく陛下と貴族の男性が決めて執り行ったようだ。
殿下が護衛を求めない理由は、自身で口にされた。
自分より弱い護衛はいらない。
その一言に全てが込められている。
「試験など中止だ。こんなもの、やるだけ意味はない」
「し、しかし今から中止は」
「お前たちが勝手にやったことだ。仮に合格者を出したとして、誰が合格を決める? 俺の護衛なら、俺が決める。そうだろう?」
「は、はい」
「なら結論を出してやろう。ここにいる人間、全員不合格だ」
殿下は集まった者たちに告げた。
当然、場は凍り付き、すぐにどよめきだす。
「ふ、不合格って」
「まだ試験の途中……」
「文句があるなら聞いてやるが、俺より強い自信があるやつだけだ」
皆が黙ってしまう。
殿下の強さ、天才ぶりは誰もが知っている。
あらゆる面で才覚を発揮した彼に、正面から自分のほうが強いと言える人間はいないだろう。
私だって自信はない。
それでも私は――
「試験は終わりだ。全員帰れ」
「――殿下よりも強ければ、専属騎士になれますか?」
「――!」
声を上げた。
ここで終わってしまったら、七年間が無駄になる。
ブレイブ家の復興も叶わない。
引くわけにはいかなかった。